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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第3章 竜と魔物とマギアガーデン
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第2話 魔法学校への招待

 一枚の手紙が始まりだった。


 昨日、ステージが終わったフィーが控室に戻ってきた時のこと。

「今日のショーも、楽しかったね――あれっ?」

 三角帽子を取って、ふうっと額の汗を拭ってたフィーが声を上げて、とあるものを拾い上げた。それは……。

「お手紙……ですか?」

 そう。白い便せんに入った手紙が、フィーのトランクに挟んであったのだ。きっとショーの間に、誰かが届けてくれたんだろう。

「? 誰だろう?」

 真っ白い封筒には差出人の名前は書いていなくて、ただ封のところに小さな魔法陣が描かれているだけ。

 ぺりぺりぺり、とフィーが封をはがしてみると……。

「!」

 いきなり、手紙が宙にふわっと浮いて。

 かと思うと、パタリ、パタリと、ひとりでに折りたたまれては、広げられていって……。

 あっという間に折り上がったのは、翼の生えた折り紙のドラゴン。それはパタパタと翼を動かして宙に漂い続けていて……。

「お久しぶりですね、フィーさん」

 しかも、喋り出した……!? 

「もしかして、この魔法は……!」

 フィーはフィーで何か心当たりがあるらしく、驚いて目を見開いている。

「トワイアルバです。お元気ですか?」

「先生! 本当にトワイアルバ先生なの!?」

 一気にフィーのテンションが上がって、ぴょん、と飛び跳ねた。

 ……『先生』?

「久しぶり、先生! フィー、マジシャンがんばってるよ!」

「様々な場所でのフィーさんのご活躍、私もよく耳にしていますよ。卒業してから一層、魔法が上達したようですね」

 折り紙ドラゴンの高い声は性別もはっきりしなくて、特徴が無くてつかみどころがないけれど……不思議とすうっと頭に入ってくる。

「えへへ、照れちゃうな……! ありがとう、先生」

 魔法の話をしているということはことは、手紙の差し出し人は……フィーの、魔法の先生?

 そう言えば。アニマル☆サーカスのロコちゃんは、フィーの同級生だったっけ……『魔法学校』の。

「評判を聞いていると、懐かしくなってきてしまいまして――」

 折り紙ドラゴンは宙を見上げ、一瞬間を置いて。

「――もし良かったら一度、マギアガーデンに遊びに来てくれませんか?」

 それから、明るい声で告げる。

「はいっ! 行きます、行きたい!」

 お祭り好きなフィーがこれを断るはずがない。折り紙ドラゴンが言い終わるよりも早く、ぴょんと飛び跳ねて右手を挙げる。

「お時間の都合が合る時で良いですよ。封筒の中に、無期限の切符が入っていますから、是非使ってください」

 そして折り紙ドラゴンは、蛇腹の中からポケットの様に、二枚の切符を取り出して、フィーに手渡す。

 それから折り紙ドラゴンは、私の方を向いて。それから丁寧に、ぺこりとお辞儀をする。

「それから――シロップさん。初めまして、いつもフィーを支えて下さり、ありがとうございます」

 慌ててお辞儀を返すと、折り紙ドラゴンは、わたしにも切符を一枚渡す。

「もしよろしければシロップさんにも、ぜひお会いしたいです。それでは、あなたたちの旅に、類稀なる幸運が有らんことを――。トワイアルバ」

 言い終わると折り紙ドラゴンは一枚の手紙に戻って、すうっと降りてきて、フィーのトランクの中にぴったりと収まった。 

 わたしは手元に残った切符を見る。無期限という言葉の通り、汽車の日付も、出発駅も書かれてはいなくて。

 

 『夜行 マギアガーデン行き』

 

 ただ、その文字だけ。

 いつ、どこから乗っても大丈夫なんだろう。

「――『マギアガーデン』は、本来は魔法学校の名前。だけど、いつの間にかみんな、魔法使いが生まれるその街自体を、そう呼ぶようになったんだ」

 トランクを持ったフィーが教えてくれて、それからぎゅっと手を握られて……って、え?

「それじゃあ、マギアガーデンにしゅっぱーつ!」

 そしてフィーは控室を出て、意気揚々と歩き出す――って、えっ、今日もう出発するの?!

「ちょ、ちょっと待って下さい、まだ、衣装の着換えが……!!」



 ◆  ◆  ◆



 きいいっ……ぷしゅーっ。

 車輪が擦れる音と、蒸気を吐き出す音。車窓が動かなくなった。

「降りるよ、シロップ!」

 準備をしていなかったのか、向かいの席に座っていたシロップが慌ただしくローブを抱えて、帽子を被っている。

 ……って、そうだ、わたしも全然荷物をまとめてなかったんだ!

 急いで上着を羽織ってトランクを持って、フィーに続いて立ち上がって通路を小走りしてホームに降り立った。

「ふうっ……」

 まだ、目的地に着いただけなのに。つ、疲れたな……。

 トランクを一旦ホームに置いて、ひざに手を置いて前かがみになって息をついた。

「うわ~! 懐かしい~!!!」

 一方、底抜けに元気なフィーは駅のホームを眺めている。

 マギアガーデン駅はそれほど大きくはないけれど、暖かみを感じる木造の駅舎で、どこか歴史を感じる作りだった。

「見て見て、シロップ!」

 フィーに、袖を引かれる。フィーが指差した先には、白くざらついた壁にオレンジ色の、クレヨンか何かで描かれた大きな太陽の絵。……お世辞にも、あんまり上手いとは言えない。

「これ、遠足の前の日に、晴れて欲しいって願ってフィーがお絵描きしたんだよ!」

「……」

 『えぇ……』と出かかった声を慌てて呑み込む。どうやら、魔法学校時代のフィーも、今とあんまり変わらなかったみたい……。

 だけど、よく見ればホームの壁には、フィーの描いた太陽以外にも、沢山の子供の落書きがそのまま残されてあって……駅員さんの優しさが伝わってくる。

「そろそろ行こっか!」

 フィーが、弾む様な足取りでホームを歩いていく。すると、改札の前でさっきの車掌さんが、コーヒーを飲んで休憩しているのを見かけた。

 この駅で長く停車するらしく、車掌さんもほっと息を付ける余裕が有ったみたい。

「あっ、車掌さんだ! ホットミルク、とってもおいしかったよ!」

「親切にしてくれて、ありがとうございました」

「……」

 すると車掌さんはこくりと頷いて、ゆっくりとコーヒーを飲み干した。その頬は、ほんのりと赤く染まっていて。

 寡黙な車掌さんだけど……もしかして、ちょっと、照れているのかな……?

 ぴゅおおおーっ!

 汽笛が鳴る。車掌さんが指を鳴らしてコーヒーカップをしまって、帽子をしっかりとかぶり直した。そろそろ、出発だ。

「ありがとう、車掌さん!」

 フィーが手を振る。すると車掌さんはまっすぐフィーとわたしのことを見て。

「お客様の旅路が、幸運に恵まれますように」

 穏やかな声でこう言うとお辞儀をして、列車へ乗っていく。

「じゃあねーっ!」

 その後ろ姿に思いっ切り手を振るフィー。すると、車掌さんはこっちをちらっと見て、微笑んで――。

「汽車に卵は運ばれて――」

 ほんの小さな声で囁く。

 ?? 今、なんて……? 

 気になったけれど、もう一回ぴゅおっと汽笛が鳴って、からんからんと大きなベルの音が響き渡って、その続きは聞こえなかった。ドアが閉まると、ゆっくりと列車は走り出す。

「ばいば~い!」

 窓からひょいっと顔を出して、敬礼してくれる車掌さんが遠ざかって見えなくなるまで、フィーもわたしを手を振り続けたのだった。



 ◆  ◆  ◆



 他の夜行のお客さんがみんな改札を出て、静かになったホームには、フィーとわたしだけが残されて。私たちも改札を潜って、天井の高い木造の駅舎の中を歩いていく。

「あの。車掌さんが最後に囁いた――」

「? どうしたの、シロップ?」

「い、いえ、何でもありません」

 どうやら車掌さんの言葉は、ウサギの耳を持つわたしにだけ聞こえたらしい……。

 ……一体、どういう意味だったんだろう。車掌さんは、何を言おうとしていたんだろう……?

 考えている内に、駅舎を抜けて。爽やかな風と暖かい日差しに全身を撫でられる。

「良い気持ち~!」

 フィーが思いっ切り伸びをしている。風と日差しのお陰でようやく、ぱっちりと目が覚めた気がした。

 ボーン、ボーン……。

 と、穏やかな鐘の音がどこからか聞こえてくる。

「見て見て、あれ!」

 見上げてみれば、駅舎の上に設置された、レンガ造りの時計塔が、朝九時を告げるところだった。

 これもまた駅舎の様にぼんやりと古めかしくて、どこか懐かしい気持ちにさせられる。いつまでも眺めたくなるぐらいに……。

「フィー、山登りごっこをして、あのてっぺんに上ったことが有るんだよ!」

 唐突に、凄いでしょっ、と胸を張るフィー。

 ……感傷、ぶち壊し。

 そもそも山ですらないし……。

「ここが、マギアガーデンで一番の通りなんだよ!」

 慣れた様にフィーは、駅前からまっすぐに続く道を歩き始める。

「ふっふ~ん!」

 道幅はそれほど広くないけれど、両脇に色んな種類のお店が立ち並んでいて、フィーはうきうきと鼻歌をしながら歩いていく。

 だけど……。

「……」

 がらん……。

 そんな音が似合ってしまうぐらい、通りは閑散としていて。

 人通りがまばら……どころか、わたしたち以外に誰も歩いていなかった。お店もほとんど閉まっちゃってるし……。

 魔法使いが生まれる街と聞いていたから、もっと賑やかだと思ってたのに。こうも誰もいないと、ちょっと寂しいな……。いや、魔法使いなんて大嫌いなんだけど、それでも。

 楽しそうなフィーとは対照的に、私はきょろきょろと不安そうに辺りを眺めながら歩いていく。

 すると、視界の先で一軒のお店の扉が開いて。白いエプロンを着た二十歳ぐらいの金髪のお姉さんが出てきて、指を振ってお店の軒先の植物に、水をあげた。

 欠伸をしたお姉さんが店の中に戻ろうとして……ふと、わたしたちと目が合った。

「あれっ」「あっ!」

 お姉さんと、フィーの声が重なる。

「もしかして……フィー?」

「久しぶり、ダージェさん!」

 勢いよく、そのお姉さん――ダージェさんに駆け寄るフィー。お互いに歓喜の声を上げてるから、知り合いだったみたいだ。

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