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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第2章 魔法のお菓子は甘くない?
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第11話 煙が晴れたら――

 もくもくもく……。

「な、なにこれ~?」

「けほっ、けほっ……!」

 ピンク色の煙に包まれた部屋から、戸惑うフィーとシロップの声が聞こえてくる。

 くくくっ。アラメリゼのいきなりのお菓子化魔法で、驚いたんだろう。

 だけど、ここからが本番。

 煙が徐々に引いていく。うずうずが止まらない。早く、早く、早く! 

 そうこうしている内に、煙が完全に晴れてくる。

 さてと、フィーと白うさぎは、どんなショートケーキになっちゃったんだろう! 

 どんな素敵なケーキに、どんなおいしそうなケーキに、どんな甘いケーキになっちゃったんだろう……!?

「あ、あれ……?」

 だけど。あれ? あれ? どうして?

「ふうっ。ようやく明るくなったね、シロップ!」

「煙が、無くなりましたね……」

 ステージの上に立っているのは……フィーと、シロップ。

 それも、ショートケーキにしたはずなのに。フィーもシロップも、元の姿のままだ。

 う、うそ……。もしかして、失敗? 

 アラメリゼの、最高のお菓子化魔法が? まさか……?

 でも、いいや。一回失敗したのなら、もう一回魔法を掛けてあげれば良いだけの話だ。

「そう言えば、フィーさん……」

「? どうしたの、シロップ?」

「その、お部屋に――」

「あれれっ? ほんとだ、どうしちゃったんだろう?」

 フィーもシロップもお喋りに夢中で、完全に油断し切ってるところだし。

 くくくくっ……! 

 アラメリゼはすぐに気を取り直して、床に落ちたステッキを持って――。

「……??」

 って――あ、あれ? ステッキが、ステッキが持てない? 

 おかしいなって、もう一回床のステッキを拾おうとするけれど。

 !? どうして? どうして体が動かないの? それに、床にはステッキだけじゃなくて、アラメリゼの付けていた金の王冠も落っこちていて。

 なのに、それを拾うことができない。体が、動かせない? 

 それに、フィーやシロップや、部屋の中の物がさっきよりも小さく見える。

 まるで、上から見下ろしてるみたいに――。

「な、何が起こってるの……?」

 まさか。まさか、こんなの夢よ。冗談に決まってる。夢か、幻か、それとも――。

「! 今の声って!」

「アラメリゼ様、ですよね……」

 すると、アラメリゼの声が通じたのかフィーとシロップが、ハッとしてこっちの方を向いた。

 ほっと胸をなで下ろす。

「そうよ、アラメリゼよ! アラメリゼはここにいるわ!」

 と、声を掛ける。きっと、強い魔法が暴発して、その衝撃で部屋のフックにドレスが引っかかってしまってるんだ。

 それだったら、体が思う様に動かせないのもしょうがない。

 とにかく、ここから下ろして貰わなくっちゃ。お菓子化魔法は、それから仕切り直して掛ければいい。

 これも、おいしいケーキを食べるのに必要なことだと思えば……。

「今行きますね、アラメリゼ様!」

 そしてすぐにフィーが駆け寄っていく……アラメリゼがいる方向とは、逆方向へ。

「アラメリゼ様、ここにいるんですかー!」

「どこに行ってるの、アラメリゼは反対側よ!」

「? おかしいな、こっちから声がしたのに……?」

 壁に向かって話し掛けてたフィーはそんなとぼけた声を出して、首をかしげる。

 もう、何をしてるのかしら? 声のする方なんて、すぐ分かるに決まってるのに……。

「あ、あの……私は、こっちの方から声がしたと思うんですけれど……」

 と、おずおずと発言するのは、シロップ。

 そしてシロップもまた、フィーが駆け寄った方とも、アラメリゼの方とも、また全然違う方向を指さしていた。

「どういうこと? アラメリゼはこっちだって言ってるでしょう!?」

 なんて、ちょっと大きな声で催促する。ああ、早く下ろしてったら!

「やっぱり、こっちから聞こえるんだけどな……」

 だけど、分からず屋のフィーは不思議そうな表情でそっと、壁に手を当てた。

「きゃっ! くすぐったい!」

 やだっ、何、今の……? 

 ふわっ。と、体が暖かくてやわらかいものに撫でられた感じがして。

 くすぐったくて、思わず声がでちゃった。な、なに、今の感覚……!?

「あ、あれ、あれ、シロップ、凄いよ!」

 すると。何故かフィーも驚いた顔で、自分の手の平と、触った壁と、シロップのことを見比べていて。

 それから……。

「えへへっ、この壁、チョコレートでできてる~!!」

 そして、さわさわっ、と何度も壁を撫でるのだった。壁が、チョコレートに? 馬鹿みたい。

 でも、でも、確かに、フィーが撫でる壁は一面、茶色いチョコレートになってる様に見える。

 それに、く、くすぐったい、どうして、どうして体を撫でられてるの、くすぐったいったら、止めてよ……!

「よ、よく見ると、こっちの壁は、ビスケットになっていますね……!」

 って、シロップが見つめる壁も、よく見ると確かにビスケットになっていて。

 何で? どうして、アラメリゼのお部屋がそんなことになってるの……?!

 それだけじゃない。

「わあっ、凄いよ、シャンデリアはキャンディーだ!」

「ゆ、床は、カラフルなマカロンになってますね……!」

「扉はキャラメルに、窓は砂糖細工になってるよ! 綺麗だね~!」

「お城の見た目も、ショートケーキになってる……おとぎ話に出てくる、お菓子のお城みたい……」

 『お菓子のお城』。窓の外を覗いたシロップの、そんな言葉。

 どうして? どうして? アラメリゼのお部屋には、確かに沢山のお菓子が有った。

 でも、全部が全部お菓子まみれじゃなかったのに。

 どうして一瞬で、床も、屋根も、家具も全部、お菓子になっちゃってるの?? 

 分からない。何にも、何にも分からない、けど……とにかく!

「早く、早くアラメリゼを――」

「ステージは、マシュマロになってる! トランポリンみたい!」

「アラメリゼを見つけ……ひゃあっ!?」

「ぽよん、ぽよ~んっ! ――あれっ?」

「くすぐったいったら、もう、誰なの!?」 

 ふと、呑気にマシュマロのトランポリンで飛び跳ねて遊んでいたフィーが、動きを止める。

「……ぽよんっ」

「ふ、ふわああっ……!」

 それから、もう一回フィーが飛び跳ねた途端に。アラメリゼの体がむずがゆくなって。

「「「……」」」

 部屋が、沈黙に包まれた。

 まさか。まさか。まさか!

 まさか、アラメリゼは今……。

「お菓子のお城に、なっちゃってるの……!?」

 つまり、アラメリゼは部屋のフックに引っ掛かってたんじゃなくて。

 このお部屋を、いや、このお城全体と一緒にお菓子に、変わっちゃったっていう訳……?! 

 そんなの有り得ない、有り得ない! 

 だけど、フィーに触られたくすぐったい感覚は本物で。

「こ、こんなの、変よ。だって、アラメリゼのお菓子化魔法は――」

 お菓子化魔法は、あなたたち二人に向けたのに――って、言い掛けて、慌てて口をつぐむ。

 でも、でも! こんなの、おかしい、変だ。

 だって、アラメリゼはシロップをショートケーキに変えるつもりだったのに。

 なのにどうして、アラメリゼの方がお菓子のお城なんて、変な物に変身してるの!?

「フィーは、どんな魔法を使うかは決まってなかったんだけど……」

 口元にちょいっと人差し指を当てて、フィーが宙を見る。

「とにかく大きい魔法をしなきゃって悩んでたら……」

 それからフィーは嬉しそうに、混乱している様子のシロップをちらっと見る。

「シロップが手を繋いでくれて、魔法がひとりでに溢れて来たんだよね!」

「は、はい……!」

 きょろきょろと辺りを見回しながら、こくり、と、控えめに頷くシロップ。

 つまり……フィーは、とにかく大きい魔法を掛けようとした。

 大きい魔法……だから、お城って言うこと? つまりフィーは、お城に魔法を使ってみようって考えたってこと?

 それがアラメリゼのお菓子化魔法と衝突して合わさって、アラメリゼをこんな、『お菓子のお城』なんてふざけた姿に……? 

 そんな、馬鹿馬鹿しい。だけど、足し算で考えるとこういうことになる。

 でも、それだって、色んな所が有り得ない! 

 二つの魔法を合わせることは可能でも……お城全体をお菓子に変えちゃうなんて、そんな大掛かりな魔法、無理に決まってる! 

 今まで見てきたフィーのマジックには、そんな魔力なんてどこにも感じられなかった。

 それに、いくら凄いアラメリゼのお菓子化魔法だって、女の子を何人か一緒に変えることはできても、お城を変えることなんて、とてもじゃないけど、できない。

 それにアラメリゼの、とっておきのステッキも使ったお菓子化魔法が、『お城に魔法を掛けよう』なんてぼんやりとした魔法に負ける訳がない!

 だから、こんなの勘違いだ。勘違い、だって、高貴なアラメリゼがこんな目に遭って良いわけない!  

 ……なんて思っていると。

「――!」

 床に落ちていたある物が、目に付いた。あ、あれは……。

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