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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第2章 魔法のお菓子は甘くない?
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第8話 ☆と◎

 フィーの星空の手袋がきらっと輝く。そしてステージの中心に置かれた台の上の、大きな粘土が姿を変えたのは――。

「――お城」

 お城……それも、アラメリゼのお城よね。ただの粘土が一瞬で、真っ白いレンガでくみ上げられたお城に変わった。

「アラメリゼ様が想像したのは――お城で、当っていましたか?」

 と、嬉しそうにフィーが問いかけてくる。……ちょっと癪だけど当たってるから、頷いてあげる。

 まさかフィーが、アラメリゼの心を読んだ? 

 いや、そんな魔法を使えるなら、とっくにフィーはアラメリゼの計画に気付いてるはず。

 と、いうことは……。

「その手袋の力ね」

「当たりです!」

 何の変哲もない星空の柄に戻った手袋を付けたまま、フィーが万歳する。

「この手袋は、他の人が想像したイメージを読みとって膨らませて、変化させることができるんですよ!」

 つまり、『お城』というアラメリゼの想像を読み取って、粘土を変化させた、と。

 こういうことかしら? ふうん……。

「ねえ」

「? はい、どうしましたか?」

「それ、アラメリゼにくれないかしら?」

 『自分』じゃなくて、『他人』のイメージを読み取って変化させる、か。

 意外と、面白いアイテムかも。それなら高貴なアラメリゼが、貰ってあげてもいいかな? 

 きっと手袋だって、アラメリゼに使われた方が幸せだろうし。

「えっ、良いですよ! 大切にしてくださいね!」

 するとフィーはすぐにステージからぴょんと飛び降りて、星空の手袋を手渡してくれる。

 嫌がる顔一つしないで素直に渡してくれるなんて、中々お利口ね。

 まあ、アラメリゼが欲しいって言ったものをくれなかった愚かな人は今まで、みーんなお菓子にされてアラメリゼのお腹の中に入っちゃったんだけど。

「良い素材じゃない。どこで手に入れたの?」

 試しに付けてみると、さらっとした滑らかな手触り。それに指先にしっかりフィットしている感覚も上々だ。しっかりとした布を使って、腕の良い仕立て屋が作ったんだろう。

「それはですね……シロップ、どこだっけ?」

 フィーが口元に人差し指を当てて、小首を傾げて白うさぎに尋ねる。……全く、覚えてなかったみたい。

「え、えっと……確か、コストゥーラタウンの手芸屋さんで、買った物です」

 いきなりフィーから指名された白うさぎは、びくっと体を震わせながら、恐る恐る説明する。

「仕立て屋は誰かしら?」

「ご、ごめんなさい、そこまでは……」

 更なる質問に、緊張で声を詰まらせながら白うさぎはどうにか答えた。

「ふうん……?」

 と、アラメリゼは勿体ぶって返事をする。

 すると、白うさぎは怖くて怖くて、震えを抑えるので精一杯な表情をしていて。

 アラメリゼの質問に答えられないなんて、召使いや国民だったらとっくに食べられちゃってるところだけど。

 ああ、もっと怖がる反応が見たい……! 

 まだ、まだもうちょっと、待っておこう。待てば待つほど、恐怖が募れば募るほど、お菓子はおいしくなるんだから。

 手袋の手首の辺りには小さく、二重丸の上に『☆』マークをあしらったロゴがあしらわれている。

 コストゥーラタウン――聞いたことも無い、きっとこのアラメリゼの国じゃない街の名前だけど。

 すぐにでも、仕立て屋を探させてアラメリゼのドレスを作らせなきゃ。

 それにしても。この手袋、付けていると、すうっと、体の中にほのかに爽やかな物が流れてくる感じがする……。

「イメージを読み取れる以外に、魔力を増幅させる効果も有るんですよ!」

 と、アラメリゼのことを全く怖がってないフィーが、そう教えてくれる。

「あら、そう。便利じゃない」

 便利じゃない……あなたたちを、お菓子にする時に。

 魔力が強ければ強いほど、お菓子はとろけるほどに甘く、おいしくなる。

 くくくっ、手袋を渡したせいで自分がおいしいお菓子にされちゃうなんて……本当に、馬鹿なマジシャン!

「――でも、ねえ。他人のイメージを読み取るこの手袋は凄いけど」

 アラメリゼは椅子の肘掛けに頬杖をついて、フィーの作った城の模型を一瞥する。

「でも、わざわざ粘土に変えないで、最初からアラメリゼのイメージを直接読み取った方が早くないかしら?」

 そんなの、アラメリゼにとってはどっちだっていいんだけど。でも、そろそろ白うさぎだけじゃなくてフィーもいたぶってやらないとつまんない。

「えっ? そ、それは、うーん……??」

 指摘するとフィーは、そんな発想無かった、という風にきょとんとする。それで、不思議そうに宙を見上げてから、ぱあっと表情を明るくして。

「あっ! 粘土遊びって、とっても楽しいから! ねっ、シロップ!」

「そ、そうですね、粘土遊び、私も大好きです!」

 と、いきなり話を振られた白うさぎはこくこくと頷いて同意するけれど。粘土にする必要はないって気付いてたけど言い出せなかった……みたいな雰囲気が漂ってる。

「アラメリゼ様も、フィーと一緒に粘土遊びは――」

「アラメリゼはそんなに幼稚じゃないけど?」

 ふう……とため息をつく。確かに、粘土にされてこねられてる時の女の子の反応はとっても良かったけど、それってお菓子にした時でもおんなじだし。

「それに、ミニチュアのお城なんて、大したことないわ」

 そしてアラメリゼはポケットから、召使いで作った扇を取り出して広げる。

「さっきのアラメリゼのお話、聞いてたの? この大きくて立派なお城は、みーんな、みんな、アラメリゼが召使いに命じて作らせたの」

 そう。それに比べたら、フィーのマジックなんて、所詮は子供のおもちゃ。

「もっと、本物のお城と同じぐらい壮大な魔法を見せてくれなきゃ困っちゃうわ」

「わ、分かりましたっ!」

 アラメリゼの反応が想像と違ったのかフィーは初めて、困った様な表情を浮かべた。

 そうこなくっちゃ。生意気だった魔法使いが、段々と自分の立場を分かっていくのを見るのは飽きない。

「それではこんなマジックは、どうでしょうか? シロップ、夕焼けをちょうだい!」

「は、はい。どうぞ」

 フィーがちらっと目くばせをすると、白うさぎはオレンジ色の下地に白いマーブル模様の――それこそ、夕焼けの様な柄の手袋をトランクから取り出して、フィーに手渡した。手首のところには二重丸に☆のマーク。きっと、同じ仕立て屋が作った物だろう。

 フィーが手袋を付けている間に、白うさぎは木製の大きなトレイを取り出して、ステージ中央の台の上に置いている。

「さてさて次は、お姫様の大好きな魔法を使ったマジックですよ! 絶対喜んでくれるはず!」

 フィーが張り切った様子で、ウインクをした。

 アラメリゼの大好きな魔法と言えば、一つしかない。

 だけど、アラメリゼはお菓子に関しては尚更厳しいわよ? 

 そもそも、アラメリゼが今一番食べたくて絶対満足するのは、フィーと白うさぎを使った――。

「きゃっ!?」

 なんて考えてると、白うさぎの悲鳴が上がって。

 見ればフィーと白うさぎが両方、煙に包まれていて。

 !! ハッとする。ま、まさか自らお菓子化魔法を掛けちゃったの……!?

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