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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第1章 アニマル☆サーカス
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第2話 魔法って……

 ――ピンクの髪の十才ほどのマジシャンの女の子、フィーが『魔法の世界』と言った通り、この世界の人達は魔法を使うことができるみたいだ。

 とは言っても、普通の人ができるのは物を動かしたり、火を出したりする簡単な魔法だけらしくて……それよりももっと難しい魔法は、『魔法使い』と呼ばれる人達だけが扱うことができるんだとか。

 そして『魔法使い』のフィーは、自分の特技を生かして、魔法を使ったマジックショーを色々な場所で開いて暮らしている。

 そのマジックショーの中心となっている魔法は――『変化魔法』。

 動物やものを、また別の動物やものへと変えてしまう魔法。

 しかも、フィーのショーで披露されるのは……。

 どこからか――多分、この魔法の世界とは違う世界から召喚した女の子を、人間以外の何かに変えてしまう『変化魔法』。

 魔法で呼び出されて訳も分からないで混乱する女の子達を、フィーが魔法で色々なものに変えていく。

 それだけの、マジックショー。

 動物にだっておもちゃにだってお菓子にだって、フィーは人間をどんなものにでも変えちゃう、とっても恐ろしい魔法使いだ……。

 ……フィーが着ているローブだって、帽子だって、靴だって、元は人間だったんだ。

 仲の良さそうな三人組だった。なのにフィーは、フィーは、『仲良しでお揃いの服になるなんて、素敵だね』って言いながら、女の子たちを魔法で変えて……。

 それだけじゃない。

 フィーのローブについているワッフルの形のアップリケだって、トランクだって、ブランケットだって、それに、履いているパンツだって、全部、元は人間だったのに。

 わたしが今羽織ってる、深い緑色のローブだってそうだ。ショーの時に着なきゃいけないバニーガールの衣装や、シルクハットだってそうだ。

 それに、フィーの大好物の、お菓子だって……。ケーキにプリンにキャンディーに、フィーはいつも沢山の女の子を、甘い甘いお菓子に変えている……。

 見た所、この世界にも普通のお菓子は有るらしいし、人間からじゃなくても、何か別の物を変化させてお菓子を作ることだってできるのに。

 ただ、普通よりも甘くておいしいからっていう理由だけ。それだけでフィーは、知らない女の子をお菓子にしていて……。

 なのに、それなのに、この世界の人達はそれを変だとは思わない。いつも満員の、フィーのショー。沢山の拍手。ファンレター、プレゼント。それどころか、フィーの魔法で動物やものに変えて欲しいって頼む人までいる。

 それは、無理矢理変えられる子達の、怖がる様子と正反対。

 おかしい。こんなの絶対おかしいよ……!

 気が付けばまた、気分が沈んで、体が熱くなって、涙が出てきそうになっちゃっていた。

 いけない。こんなところ、フィーに見られたらいけない。慌てて拭えば、ふわっとした感覚が頬を撫でる。涙のしずくは、真っ白いわたしの手の平に絡まっていて。

 大きくて長い耳は今、しゅんと力なく垂れてしまっている。



 ――三か月前の、あの日。

 学校がお休みの日、街中に一人で遊びに出掛けていた途中で、わたしは、フィーのマジックでこっちの世界に連れて来られて。

 そして、ショーのステージの上で、いきなり、人間から、姿を変えられた。

 体の色は真っ白。瞳は深い赤色で、頭の上には大きなうさみみ。この、白うさぎの獣人の姿に。

 人間だった頃のわたしと変わっていないのは、せいぜい茶色で長めの髪型と、160cm前後の身長だけ。そんなの、何の慰めにもならない。

 真っ白の体で、瞳は赤色で、うさみみが生えていて。どこからどう見ても、今のわたしはうさぎにしか見えない。人間だって分かる人なんていない。

 それだけじゃない。あの日からずっと、フィーのショーのアシスタント役をやらされて、女の子達が魔法で、お菓子やおもちゃや動物に変えられるのを見せられ続けてきた。

 逆らったり逃げたりしたら、何をされるか分からない。わたしだってあんな風に、チョコレートに変えられて食べられちゃうのかもしれない……。怖い、怖いよ……。

 でも、でも、それなら、このままずっと、うさぎの獣人の姿なの? ずっと、フィーのアシスタントをやらなきゃいけないの?

 もう嫌だ、嫌だよ、こんなの! わたしはうさぎなんかじゃない! 動物なんかじゃない! 獣人でもない! 

 なのにいくら泣いても、そんな願いは通じない。

『……ごめんね。フィーのマジック、人間を他の動物やものに変えることはできるんだけど……元には戻せないんだ。』

 そんなフィーの言葉を思い出す。そんなの嘘だって信じたいのに……確かにフィーがショーの中で、変化させた女の子を人間に戻していたことは、一度だって無くて。

 ……。ここは、本当に魔法が使える、夢の世界。だけどそれは……悪夢。

 こんなの、悪夢だよ! 魔法って、魔法って、もっと素敵なものじゃないの? 人間を変えて楽しむなんて、そんなひどいこと、魔法はしちゃいけないはずなのに……!

「う、う……」

 気が付けばまた、泣きそうになっちゃっている。

 誰か。

 助けて! 誰か助けて! もう嫌だ、こんな世界、嘘だって言ってよ! だって、わたしは人間だよ? 人間なのに。うさぎの獣人でもないし、フィーのアシスタントでもないのに!

 わたしは人間で、あの日はただ街中に出掛けていただけで、それで、それで――。

 ……。

 それで?

「あれ……」

 呟いた途端に、急速に体温が冷えていく。

 それで……それで?

 目を閉じて、必死に考える。おかしい。こんなこと、こんなこと、絶対に有っちゃいけないのに。だって有り得ない話なのに。どうして、どうして?!

 真っ黒な絶望に覆いつくされる。一番気付いてはいけないことに気付かされて、世界がひっくり返るみたいで、くらっと目眩がして、ふっと意識を無くして倒れてしまいそうになって。

「あっ!」

 だけどその時。突然、フィーが声を上げて。明るい声が公園に響く。それから、ハッとした様にパタン、とチョコレートを入れる箱の蓋を閉めた。

「そうだ、このチョコレートは、おみやげにしよっと! こんなにおいしいんだから、きっと喜ぶだろうな~!」

「おみやげ……」

 って、誰の為のですか? と尋ねる前に。

「この近くなんだ! 行こう!」

 フィーがベンチから立ち上がって、三角帽子を頭に被ってローブを羽織ってトランクを手に取って。それから振り返って、右手を差し出してくる。

「……はい」

 今のフィーの明るい調子だと、多分、泊まるホテルに行くんじゃないんだろうな。きっとまた、マジックショーの会場に行くんだ……。

 フィーの手を取って、ベンチから腰を上げれば、おしりの上辺りに生えたうさぎの丸い尻尾が、ぴょこんと反応するのが分かる。反対にうさみみはずっと、うさぎになったあの日から、ずっと、力なく垂れたまま。

 わたしは人間で。あの日はただ街中に出掛けていただけで。それで、それで――。 

 ……。それなのに。

 どうして、自分の名前が思い出せないの……?

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