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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第2章 魔法のお菓子は甘くない?
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第5話 魅了

「よく来たわね。あなたたちは選ばれたのよ。アラメリゼのおやつとして」

 パレードの時に連れて帰ってきた三人の女の子達に声をかける。

「ほ、ほんとうに、変えてくれるんですね、アラメリゼ様に、食べて貰えるんですね!」

 と、胸がぽよんぽよんで、牛乳みたいに肌の白い女の子が感激して言う。

「嬉しいです、やっと、やっと夢が叶いますっ!」

 褐色の活発そうな、髪の短い女の子は、嬉しくて泣きそうになっている。

「わ、わたし、この日を、この日を待ちわびて……今日まで、ずっと……!」

 淡い緑色の髪の、華奢な女の子も、ぽろぽろと流れる涙を拭いていた。

「みんなとってもかわいいから、いいお菓子になるはずよ。ちゃんと、アラメリゼが素敵に変えてあげるから」

「「「は、はい……!」」」

 すると3人は表情を明るくして、アラメリゼは笑っちゃいそうになるのを堪えている。お菓子になるのなんて、嫌なことに決まってるのに。そんなにアラメリゼに食べられたいの??

「それじゃあまずはあなたから、アピールをよろしくね」

 と、胸がぽよんぽよんの女の子を指名する。

「は、はい! 私、実はずっと、この大きな胸が目立っちゃって恥ずかしくて、自分に自信が持てずにいたのですけれど……お姫様が私を選んでくれたって言って下さった時、本当に、嬉しくて、嬉しくて、感動しました!」

「そんなにアラメリゼのことを想ってくれてたなんて、嬉しいわ。ありがとう」

 そして次は、褐色の女の子の番。

「実は私は、魔法にはあまり興味無かったんです。でもある日、変化魔法で作ったケーキを食べてみたら、本当においしくて! 私もこんな風に、誰かを喜ばせるお菓子になりたいって思って、ずっとお姫様が見つけてくれるのを、待ってました……!」

「うんうん。感心感心」 

 それで最後は、緑色の髪の毛の子。

「はい! わたし、小さい頃からずっと、お菓子になるのが夢で……習い事も、おしゃれも、沢山頑張って……おいしいお菓子になれる様に……! そして今日、本当にお菓子にしてくれるなんて、とっても、とっても幸せです……!」

「ふふ、なるほど。みんないい子。きっと、とってもおいしいお菓子になれるからね」

 そしてアラメリゼは、女の子達に目配せをする。

「それじゃあ、3人で手をつないで」

 言われるがままに浮き浮きと手をつないで輪を作った3人に、アラメリゼは微笑んで。

「美味しいお菓子になれっ……と」

 魔法を掛ける。するとすぐに煙に包まれて、現れたのは……。

「わあ、おいしそうなフルーツタルトだ……!」

 と、フィーは目をキラキラと輝かせる。ふふん、褒めて当然なんだから。

 そう、アラメリゼが作ったのはフルーツタルト。とろとろクリームと、サクサクのタルトと、甘々のフルーツ。キラキラと華やかで、上品でアラメリゼにぴったり。

 もうこの子達は人間じゃない。一瞬で、ただのお菓子に変わっちゃたんだ。そう思うとぞくっとしてきて……ああ早く、食べちゃいたい!

 ぱちんと指を鳴らすと召使いが一人入ってきて。すぐにできたてのタルトを切り分けていく。お皿もフォークもティーカップも勿論、女の子でできた特別な物だ。これで食べると、普通の物よりももっともっと甘く感じるから不思議。

 そうこうしている内に、召使いがティーカップに紅茶を注いで。私達の前にそれぞれ、紅茶とタルトが配られる。

「下がって良いわ」

 声を掛けるとすぐに召使いは礼をして部屋から出て行って。再び部屋にはアラメリゼとフィーと白うさぎの三人だけ。

「頂きましょう」

「は~い!」

 合図をするなり、アラメリゼは早速タルトを一切れ、口に運ぶ。

 ああ、やっぱりおいしい! 

 すっきりしたフルーツの甘さと香ばしいタルトの甘さを、優しいミルク味の優しい生クリームが包みこんでいる。ふわふわで、暖かくて、そしてとっても甘くて。

 まさにお姫様のための味だ。気が付いたら、あっという間に食べきってしまっていた。

 アラメリゼはついっとお皿の縁を撫でる。お皿の上はもう空っぽ。

 三人の女の子達は……アラメリゼのお腹の中だ。

「おいしい~! すごいです、お姫様のお菓子化魔法……!」

 フィーは頬を押さえながら、甘い声を出している。

「そうでしょう。女の子一人よりも、何人かをまとめて一つのお菓子に変えた方がより甘くなるのよ」

「そうなんですね! こんなに素敵なフルーツタルトを食べられるなんて、幸せ~!」

「ふふっ、アラメリゼの魔法は世界一だからね。おいしいでしょう」

 だけどきっと、フィーの方がもっとおいしいはず。

 フィーがお菓子になっちゃったら、どうなるんだろう……想像するだけで、またお腹が空いてきちゃう。魔法使いで作ったお菓子のおいしさを知っているから、尚更。

 くくく、笑ってられるのも今の内だから……!

「……」

 フィーより楽しみな白兎はというと。フォークを持って、タルトをただじっと見つめていて。悲しそうな表情で、それ以上フォークを近づけられないでいる。

「どうしたの? 食べないのかしら?」

 今、どんな気持ちなのか。分かっているけど、わざと尋ねてみる。

「あ、あの、私、ちょっと、お腹が――」

 慌てて取り繕うとする白うさぎはかわいくて、もっと苛めたくなっちゃう。

「食べたくないの? 折角アラメリゼが作ってあげたお菓子を?」

「ご、ごめんなさい……!」

 脅してみると俯いて、それから白うさぎはフォークを握る手に少し力を入れる。ここで逆らったらどうなるのか、ちゃんと分かってくれたみたいだ。

「……」

 白うさぎはフォークを震わせながら、タルトを小さく切る。

 フォークに乗った一切れをじっと見つめてる。動作はとてもゆっくりで、手を震わせながら。

 やっぱりだ。思った通り。このうさぎは、タルトを食べたくなんてない。

 だけど、アラメリゼの作ったお菓子を見て戸惑っているんだろう。

 だって、おいしそうなんだもん。アラメリゼは物体の変化魔法しか使えない代わりに、才能は一級品なんだから。どんなお菓子だって、国で一番おいしく作ることができる。

 味だけじゃない。見た目だってばっちりで、まるでキラキラ輝いてるかの様に素敵なお菓子。思わず白うさぎが食べたくなってきちゃってたら、それも無理もない。

 だからこの国の女の子は、アラメリゼの魔法で、とってもおいしくてかわいいお菓子にしてもらいたいんだ。

 でも、白うさぎは責めているんだ。

 おいしそうって思っちゃったことを。女の子を魔法で変えて作ったタルトなんか、おいしそうって思っちゃダメなのに。一瞬でもそう感じちゃった、自分を責めてるんだろう。

 面白い、本当に面白い! もっともっと、もっともっともっと悲しんでほしい、嫌な気持ちになって欲しい。

 お菓子になりたい子達から作ったケーキだっておいしいけれど、悲しや憎しみや怒りから作られたお菓子の方が、きっともっともっとおいしいんだ。

 だから生意気な子達は、み~んなお菓子に変えちゃえば良いんだ!

「さあ、早く召し上がりなさい」

「は、はい……」

 そう促すと、白うさぎは泣きそうになりながら、目をつむって、一切れのタルトを――。

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