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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第1章 アニマル☆サーカス
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第18話 おやすみの前に

「あの……」

 と、わたしの背後から、幽かな声がする。

 ロコちゃんの声だ。

「……ぴいっ……ぴるっ……」

 そして、ロコちゃんの右肩の辺りに浮かんでいるのは、カーバンクルのルカちゃん。

 眠くなっちゃったのか、うつらうつらとして、二本のしっぽが垂れちゃっているけれど……。

「あの、えっと……」

 その一方でロコちゃんは緊張しているみたいで、一体、どうしたんだろう……?

「フィーちゃんは、元気ですか?」

 ……なるほど。どうやらロコちゃんは、フィーの近況をもっと知りたいみたいだ。しばらく離れていたらしいから、やっぱり心配なことも多いんだろうな。

 ロコちゃんが尋ねたいことが分かって、ようやく肩の力がすっと抜けた。

「はい、いつも元気ですよ。病気になったり、具合が悪くなったりもしてません」

 それどころか、殆どいつもあのテンションで。それはもう、うんざりするぐらいに、元気です……。

「そうですか」

 ロコちゃんが口元に手を当てて、くすっと笑う。

「良かった。変わっていないんですね、フィーちゃん」

 ほっとしているロコちゃんの口調は懐かしそうで、優しさに溢れていて。

 本当に仲良しなんだ……って、ほんの少しだけ、二人の関係が羨ましくなる。

「フィーちゃん、前よりももっと、もっと魔法が上手くなっていて……びっくりしちゃいました。あんなにおいしいチョコレートが作れるなんて……!」

 ……チョコレート。

 同じ魔法使いだから、やっぱり見ていて分かるんだ。

 フィーを褒めるその口調はどこまでも純粋で。

 いくら、フィーよりも普通には見えたって、良い子に見えたって……やっぱり、ロコちゃんも……エゼル団長もみんな、みんな、この魔法の世界の人なんだ……って、思い直す。

 ……わたしは、ロコちゃんのそばに浮かぶルカちゃんに視線を移す。寝ちゃっているんだろうか、目を閉じてこっくりこっくりしていた。

 そうだ、ルカちゃんだって、こっちの世界の存在になっちゃったんだ。

 たった半日も前までは、普通の人間の女の子だったはずなのに。フィーに呼び出されたばっかりに、カーバンクルに変えられて。それだけじゃなくて、ロコちゃんの『心の魔法』で心までカーバンクルに、動物に変えられて……。

「ぴゅいっ?」

 と、そこで。ルカちゃんがぱちっと目を覚まして、不思議そうにロコちゃんの顔を覗き込む。

「ううん。何でもないよ、ルカちゃん」

 ロコちゃんが目を細めて、ルカちゃんの背中をゆっくりと撫でてあげる。

「きゅうう……」

『ねむいよ、ロコ……』

 すると、いきなりルカちゃんの声が聞こえてきた。さっきロコちゃんが分けてくれた、動物やものの声が聞こえる、『おはなし魔法』の力がまだ、残っていたのかな……?

 気持ち良さそうなルカちゃんはやっぱり眠いらしくて、くすぐったそうなかすかな声を出す。

 そして、くあああ……と、大きくあくびをした。

「もうこんな時間だから……そろそろ、ベッドに行こう……!」

 ロコちゃんが優しく笑って、ルカちゃんにそう話し掛ける。

『うん、そうする! ねえねえ、ルカ、ロコと一緒のベッドが良い……!』

「うん……! それじゃあ、そうしようね!」

『やった! ロコ、大好きっ!』

 ルカちゃんがロコちゃんのほっぺたを、ぺろっとなめる。

「くすぐったいですよ、ルカちゃん……!」

 ロコちゃんはルカちゃんを、そっと抱きしめてあげた。

「でも、ごめんなさい、ルカちゃん。ちょっと先に、寝室で待っててくれるかな……?」

『わかった! はやくきて、いっしょにねようね、ロコ!』

 そしてルカちゃんはすたっと地面に降りると、そのままテントの奥へと向かっていった。

「「……」」

 そして、静かな時間がやってくる。

 ……どうやら、ロコちゃんは、何か伝えたいことが有るみたいだけど……それが何なのかは、さっぱり分からなかった。

 ルカちゃんの二本の大きなカーバンクルのしっぽが遠ざかって、テントの闇の中に消えていく。

 ……。

 人間を魔法で身も心も動物に変えちゃうなんて……ひどい、ひどすぎることだ。

 だけど……ステージの上で、そして夜空の下で踊るルカちゃんを思い出す。

 ルカちゃんは、ルカちゃんは……とっても、楽しそうだった。心の底から、楽しんでいる様に見えた。カーバンクルになれて、本当に嬉しそうだった。

 そんなの、おかしいはずなのに、否定できない、もしかしたら、カーバンクルになれて、良かったのかな……? って、考えちゃって、怖くなってくる。

 ……違う! 本心からそう思って見えても、それはきっと、絶対、心の魔法に操られてるだけなんだ! ルカちゃんは、本当はカーバンクルになって良かったなんて、思ってないはずなのに……!

 心の、魔法……。人間の心を、動物に、ものに、好き勝手に変えることができる魔法。

 フィーの使う変化魔法よりも、ずっとずっと怖い……!!

「大丈夫ですよ」

 と、そこで、ロコちゃんがそっと口を開く。

「……?」

 その言葉に、すぐに反応できない。

 ? どういう意味だろう……?

「大丈夫です、あなたには……」

 そしてルカちゃんはまっすぐこっちを向いて。

「あなたには絶対に、こころの魔法を使いません」

 はっきりとそう告げた。

「――!」

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