表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第1章 アニマル☆サーカス
17/41

第16話 共鳴

「そうだ! それじゃあフィーも何か一つ、マジックを見せてあげる!」

 ピンク色の長い髪の毛の、十才ぐらいの女の子――マジシャンのフィーは、トランクを開けてステッキを取り出した。ピンクと白の縞模様の、短めのステッキを……。

「「「えっ……」」」

 と、ステージに立つ他の三人の驚きの声が重なる。エゼル団長と、ロコちゃんと……それから、わたし。

 あ、あれ? フィーとわたしはただ、客席でサーカスを見ていただけだったのに。

 どうして、どうしてこんなことに……???

「い、いえ、お構いなく、フィーさん……!」

 フィーとわたしをステージに呼んだエゼル団長も慌てている。きっとゲストと言っても、マジックまで頼むつもりは無くて、ステージの上で少しだけ話してもらうだけのつもりだったんだ。

 ……でも。フィーはもうお客さんに、マジックをするって言っちゃった。

 これと言って、準備もしていない、ぶっつけ本番なのに……。

「えへへ、大丈夫です! フィーはマジシャンだから!」

 と、フィーは明るく返事をするけれど。

 大丈夫……じゃない。

 普段のマジックショーの時よりもずっと緊張していることが声音から伝わってくる。

「だ、大丈夫? フィーちゃん……」

「う、うん。平気だよ!」

 心配そうなロコちゃんにもフィーはただ小さく首を縦に振るだけ。

 平気じゃないのは明らかだけど……。わたしはちらっと、ステージを囲むお客さんを見た。期待に満ちた沢山のお客さんの表情と歓声。

 どうやらフィーの変化魔法はやっぱり、どこか特別な物みたいで……お客さんの盛り上がりがびりびりと伝わって、毛が逆立った。

「それじゃ、始めるね! えいっ!」

 フィーは魔法のステッキを振るって、縄で縛られた女の子――七才ぐらいから十四才ぐらいと年齢はばらばらな女の子たちを15人ほど、舞台に登場させる。

 だけどこれも、失敗……だよね? 

 いや、向こうの世界から、女の子を無理矢理連れてくるまでは、一緒なんだけど……フィーがマジックで、こんなに沢山の女の子を一斉に変化させることって、今までなかったはず……。

「えっと……」

 フィーもここでようやくミスに気付いたみたいで、ステッキを握ったまま固まっている。

 そのまま十秒ぐらいが過ぎても、マジックはまだ始まらない。

 だけど、お客さんは特に異変に気付いてないみたいで……むしろフィーが力を溜めていると思っているらしく。更に期待の眼差しがフィーに向けられてるって分かる。

「……」

 だけどフィーはステッキと、縛られた女の子達に視線を行ったり来たりさせていて……。応援がプレッシャーになってますます緊張して、何も出来ない状態になっているんだ。

 そんな様子を、一緒にステージに立っているわたしは今、ただ見つめている。

 ちょっとだけ、気の毒かな……とは思うけど。

 でも……まあ、良い気味、だよ。こんな時に心の中で仕返ししたって、構わない、よね。

 だって、こんなうさぎのお化けにされたことは、今のフィーが味わってることよりもずっとずっとひどいことなんだから。

 いつもやられっぱなしだから、たまにはフィーも痛い目を見れば良い。

 フィーももっとひどい目に遭っちゃえばいい。

「フィーちゃん」

 そんなことを考えていると不意に、ロコちゃんの声がする。見ればロコちゃんは右手で、フィーの空いた左手とそっと繋いであげていた。

 ロコちゃんは、フィーを助けてあげようとしているんだ。

「ありがとう、ロコちゃん」

 それでフィーはちょっと落ち着いたらしい。すー、はー、と、深呼吸をして、目を閉じて女の子たちにステッキを向ける。ロコちゃんも、目を閉じて何か想っているみたい。

 だけど……女の子たちの姿は少しも変わらないで。ただ、自分たちの置かれている奇妙な状況にきょとんとしているばかり。

 その一方でフィーの緊張はますますひどくなる一方らしく……横顔からも、焦りが伝わってくる。

「ど、どうすれば……」

 エゼル団長も完全に戸惑っていて、あんまり頼りになるとは言い難い、かも……。

「マジック! フィーさんのマジックだって!」「すごいサプライズだね、驚いちゃった!」「ほら、フィーさんはあのステッキでマジックをするんだよ!」「ほんとだ……! 女の子をいっぱい出したね……!」「すごいすごい! 次は何をするんだろう?」「楽しみだね~わくわくする!」「きっと、見たことの無い様な変身魔法だよ!」

 お客さんは、待ち続けてくれている。客席からは全く不満も聞こえてこない。だからこそ余計にプレッシャーが掛ってるんだ。

 縄で縛られた女の子たちを見る。マジック……きっと、いつも通り、この女の子たちを、他の物に変えてしまう、変身魔法を使うつもりなんだ。

 ……マジックが失敗すれば、この子たちは変身することは無い。

 なら、それで良いんだ、フィーが、失敗すれば良い。恥をかけばいい。

 ……だけど。

 不安そうな表情をしている、ロコちゃん、エゼル団長。

 そして……。

 フィー。

 ……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、かわいそう……かな……。

 ……マジック、マジック。

 動物変身魔法、じゃないはずだ。

 だって、動物変身魔法はロコちゃんの方が上手だから……わざわざフィーもしようと思わない、はずだ。

 おもちゃか、ぬいぐるみ、それとも、お菓子とか、かな……? 

 ……お菓子。このサーカスに、似合うお菓子……? 

 この子達は、どんなおかしに変えられちゃうんだろう。

 フィーは、どんな、お菓子にしたいんだろう……? 

 ここはアニマルサーカスで、それでお菓子って……?

 ……。…………。

 ……あっ。

 そっか、アニマルサーカスだから――。

「うさぎさん!」

 声が響く。……ロコちゃんの声!

 すぐにロコちゃんが左手で、ぎゅっとわたしの右手を握る。

「――!!!」

 フィーが目を開ける。

 そして、思いっ切り魔法のステッキを振り上げて。

「それっ!」

 振り下ろす。

 その瞬間。

 !

 !!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ