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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第1章 アニマル☆サーカス
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第13話 ロコのステージ

 ――この、アニマルサーカスの動物たちはみんな、本当は人間だったんだ。

 それなのに『心の魔法』を掛けられて、姿だけじゃなくて心まで無理矢理動物に変えられちゃったんだ、だから本当はやりたくなんかないサーカスのステージを楽しんでいるように見えるんだ……。

 ――と、ずっと思っていた。

 だけど。

 エゼル団長と一緒にステージに上がる動物たちはみんな、本当に心からサーカスを楽しんでいるみたいで……。

 ……混乱する。

『心の魔法を使って仲良しになっても、その後でちゃんと相手のことを考えてないと、嫌われちゃうのは同じ』『楽しいって、このサーカスの団員で良かったって、本当の気持ちで思ってくれるように、もっと頑張らなきゃ――』

 そんなロコちゃんの言葉を思い出す。それで余計に、分からなくなる。

 楽しいって気持ちは、心の魔法で思わされているんじゃなくて、動物たちが本当に思っていること……? でも、その動物たちは元は人間で、心の魔法で心も動物にされちゃってるだけで……。でも、楽しい、悲しい、っていう気持ちは……動物になった心でも変わらない?   

 だから、嬉しそうな動物たちの気持ちは、心は、やっぱり本物……? 

 ???

 ……一つ、はっきりしたことがある。

 やっぱり、このサーカスの動物たちはみんな、昔は人間だったこと。多分、きっと、この世界に連れて来られて、無理矢理動物に変えられた上に、心の魔法まで掛けられたんだ……。

 ……。そして、もう一つ。

 なのに気付けば、夢中になりかけている。拍手を送ろうとしている。失敗しそうになると、ヒヤッとなって、頑張って!って心の中で応援しちゃっている。そんな自分がいる。

 どうしてだろう、だって、こんなサーカスが楽しいなんて、こんなのおかしいのに、変なのに。変。変だよね、こんなの……。だって始まる前、ほんの数時間前までは、見たくなんてなかったはずなのに、嫌だったはずなのに……!

 それは、きっと……フィーのマジックショーとは違って、人間を変えるショーじゃないから? きっとそうだ、って思っても、心の中はもやもやし続けていて……。

「――さて、夜も更けて、いよいよ最後の一演目を残すのみとなりました。この度アニマルサーカスのフィナーレを飾るのは――」

 暗がりの中で輝くカードの声に、意識が引き戻される。あれ、今の声って……。

 パチッ。

 スポットライトが灯る。

 ステージの真ん中に立っていたのは。

 ロコちゃん。

 初めて、ステージの上でロコちゃんを見る。

 淡い青色の髪を、さっきまでは長い三つ編みにしていたけれど。

 今は全てほどいていて。かすかな風に、髪の先が揺れている。

 服は、さっきの水色のオーバーオールから着替えていた。

 黒と白の模様を基調にした、動きやすそうなパーティードレス。スカートも、白と黒のチェックの柄。

 胸元の赤いリボンが、良いアクセントになっている。両手には、深い紺色の長めの手袋。

「……」

 客席をまっすぐに見つめるロコちゃんの表情からは、緊張が伝わってくる。

「……ロコちゃん」

 隣の席のフィーが、体を前に乗り出して。

「がんばれ、ロコちゃん……!」

 ぽつりと呟いた。

 わたしも息をのんで、ステージに再び注目する。

「……」

 ロコちゃんは、ふうっと、小さく息をつくと。

 右手で空中に、何かを放る様な仕草をした。

 次の瞬間、ロコちゃんの頭上には握りこぶしぐらいの大きさの、白色のボールが現れて。

 とすん、とまっすぐロコちゃんの左手に落ちてきた。

「……」

 一呼吸置いて、ロコちゃんが左手のボールを投げる。

 するとボールは頂点に来て、たった今から落下しようとするところで、空中で同じ大きさのもの二つに分裂する。そして二つとも、右手にしっかりと落ちてきた。

 ロコちゃんはまたボールを放る。

 二つ投げれば三つ、三つ投げれば四つ。ボールは結局、五つまで増えた。

「……」

 そしてロコちゃんは、今度はその五つを順番に、空中に高く放って。それから落ちて来たのを手に取って、また投げる。

 確か、ジャグリングって言うんだっけ、こういうの……。

「……」

 そのままロコちゃんは淡々とそれを続けていく。手付きは正確で、ボールは狙ったところにちゃんと落ちてくる。だけど、特に変化は見られない、同じ動き。

 ……こんな風に思ったら、悪いって、分かってる。

 だけど……エゼル団長や動物達の演目と比べると、今ひとつ、目立たないかも、しれない……。

「あっ……!」

 フィーの小さな声。

 ロコちゃんが初めて手元を滑らせて、ボールの一つが、大きく後ろに逸れて……。

 会場全体が、どよめきに包まれる。

 だけどそれは、ボールを落としてしまったからじゃない。

「きゅいっ!」

 いつの間にかロコちゃんの後方の空中に現れた、緑色のカーバンクル――ルカちゃんが、後ろに逸れたボールをしっかりとキャッチしていたからだ。

「あの動物は……」「もしかして、カーバンクル?」「本当に居たんだ……!」「凄い! 私初めて見る!」「かわいい~!」

 客席からはそんな声が聞こえてくる。やっぱり、この世界でもカーバンクルはとても珍しい動物らしくて、一気にお客さんの視線が集中する。

「ありがとう」

 一旦ボールを全て受け止めたロコちゃんが、ふわふわと空に舞うロコちゃんの頭を撫でてあげる。

 そして。

『それじゃあ――』

 ロコちゃんが囁く。

『――はじめるよ』

 ルカちゃんが元気に返事をして、右手を挙げた。

「ぴっ!」

 それを見て、ロコちゃんはこくりと、一回頷く。

 その表情は、決心と自信に満ち溢れていて。

 再びボールを空中に放り投げる。

 そしてロコちゃんが、そっと口を開いた。



 どよめきが引いていく。

 空気が、変わる。

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