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マジカルメタモルショータイム!  作者: 夜狐紺
第1章 アニマル☆サーカス
11/41

第10話 エゼル団長とチケット

「ロコ」

 控室のドアをノックする音の後、聞こえてくる声。

「そろそろ準備を始めようか、ロコ」

 凛として、落ち着いた――若い、女の人の声。

「分かりました、今行きますね、エゼル団長……!」

「うんうん、良い返事!」

 ロコちゃんで答えると、満足そうな声が聞こえてきて。すぐにきいい……と、ドアが開いて。

「あれ?」

 部屋の中に入ってきたのは、やっぱり若い女の人だった。

 かつんかつんとかかとの音を鳴らして、フィーとわたしの前に立つその女の人――アニマルサーカスの、『エゼル団長』は、背が高くて、タイツを履いた脚も長くてすらっとしていて、真っ黒な靴が良く似合っている。

 もしかして、170cm以上有るんじゃないかな? そんなエゼル団長は、肌の色は健康的な褐色で、ちょっとぼさっとした髪の毛は長めで、鮮やかな紫色。それから、蝶の形をした黒い髪飾りをつけている。

 着ているのは、濃い赤と黒の模様を組み合わせた色合いのパーティドレスの様な衣装。丈は結構短くて、胸元もかなり開いていて……大きな胸が、結構大胆に見えているデザインで。何だかドキドキして、見とれちゃう様で。

 目つきはきりっとしていて、顔立ちが大人の魅力に溢れてて。

 それでいて、どこかワイルドな雰囲気も纏っていて。

 かっこいい人だな……って思っていると。

「君達は――もしかして、」

 エゼル団長はフィーとわたしのことを交互に見る。

「こんにちは、エゼル団長! わたしは――」

 フィーが席を立って、元気に挨拶をしようとすると――。

「やっぱり! マジシャンのフィーさんと、アシスタントのうさぎさんですよね!」

 それよりも早く、エゼル団長は深々と礼をしてから、フィーの手を、それからわたしの手をがっちりと握った。……えっ?

「わたし、あなたたちのマジックの大ファンで! とてもかわいくて見応えも有るなんて、本当に素晴らしいです……!」

「そ、そんな! フィーなんて、全然、アニマルサーカスに比べたら……」

 フィーが照れて顔を赤くしている。こ、これはかなり、珍しい光景かも……。

「え、えっと、ありがとう、ございます……!」

 わたしの方も、そんな返事が自然と出てきちゃっている。それもそのはず、エゼル団長の口調は熱意に溢れていて、綺麗な赤色の瞳もキラキラと輝いていたから……。

「しかし、どうしてお二人がこのサーカスまで……?」

「フローラルウィンドタウンで公演されるって知って、それで、ロコちゃんに――」

 『ロコちゃんに会いに来た』。

 嬉しそうに尋ねるエゼル団長に、フィーがそんな感じのことを答えようとすると。

「なるほど、よくやった、ロコ!」

 それよりも早く、エゼル団長は今度は、ロコちゃんに抱きついて。

「ロコはとっても、とっても良い子だね!」

 ちゅっと、ロコちゃんのほっぺたにキスをした。

 そ、そんなにいきなり、キスしちゃうの……?? って、見ているだけでも顔が熱くなってくる……!

「す、すごいねー……」

 これにはフィーも瞬きをして驚いていて。

「え、エゼル団長…………!」

 エゼル団長の胸の中のロコちゃんは慣れてはいるらしいけれど、やっぱり頬を朱色に染めている。

 エゼル団長が、ロコちゃんを普段からとてもかわいがっているって、これだけでも伝わって来るけれど、な、何だか、見ていると、ちょっとだけ、不思議な気分になってくる……??

「おっと、これは失敬」

 そしてエゼル団長は、ロコちゃんからゆっくりと腕を解いて、もう一回ぺこりとお辞儀をして。それから、胸元から二枚の細長い紙を、ぴらっと取り出した。

「これは今日のチケットです。良い席をご用意致しました」

 そして団長は、フィーとわたしに一枚ずつ、細長い紙を手渡した。

 『アニマル☆サーカス』っていう名前と一緒に、動物たちのシルエットと、席の番号が書かれたチケット。

「はい、どうぞ」

 手の平を下にそっと添えてくれるエゼル団長の仕草は、やっぱり優雅だ。

「じっくりとお楽しみくださいね。こちらもフィナーレ、本当に楽しみですよ」

 ? エゼル団長の言葉がちょっと引っ掛かる。フィーも同じ様に、わずかに首を傾げていたけれど。

「はい!」

 だけどすぐに、元気に返事をして、フィーは右手を挙げた。わたしもお辞儀をする。

「それじゃあ、わたしは大道具の手入れをするから、ロコは動物たちのウォーミングアップをよろしくね」

 エゼル団長はにこっと笑うと、ドアをまた開けて。

「それでは、ごゆっくりどうぞ!」

 ともう一回お辞儀をして、姿がぱっと見えなくなった。

「エゼル団長、とってもきれいな人だったね~!」

 テンションが上がったフィーがぴょんと飛び跳ねる。

「そ、そう、だね、かっこいいよね……」

 キスをされた余韻がまだ残っているロコちゃんは、恥ずかしそうに顔を赤くしている。確かに、とっても美人さんだったな、エゼル団長。クールビューティーって言うのかな、ああいう人のこと。

 女の人なのに、ドキドキする、みたいな……。

「それじゃあ、フィー達もそろそろ行くね!」

「失礼しました」

 準備が始まるのに邪魔していたら悪い。フィーがローブと帽子を抱えてドアを開ける。わたしも慌ててローブを羽織って控室から出た。そのままテントの出口へと向かう。

「ロコちゃん、元気そうで良かった……!」

 歩きながらローブを着て、三角帽子を胸元でぎゅっと抱きしめながら、フィーがどこかぽーっとした口調で言った。頬がほんのりと赤くなっている。

「ロコちゃんはね、昔からとっても優しくてね、そんなロコちゃんのことがすっごく大好きで……」

 ロコちゃんと再会できたことが、本当に嬉しかったんだって伝わってくる。

 もっと喋りたかったなって寂しく思ってるんだってことも、何となく分かる。

 だから、それを紛らわそうと、ちょっと早足になっている。

 きっと今、ロコちゃんもフィーと同じことを思ってるんだってことも、想像できる。

 それぐらい、二人は本当に仲が良いみたいだった。

 ……友達。

 今までのフィーはずっと、底知れず純粋に見えるだけで何考えてるか分からなくて、今だって変身した女の子を怖がらせていたりしていたんだけど……でも。

 ロコちゃんと楽しそうに話している時……ちょっとだけ、普通の女の子に見えてしまった。そんなはずがないのに。そんな訳ないのに、フィーは人を平気で変身させちゃう、恐ろしい魔法使いのはずなのに……。

「有った!」

 テントの壁に、内側からも描かれていた大きな星マーク――出入り口はきらめいていて、暗い中でも探しやすかった。それに不思議なことに、行きはあんなに迷ったのに、帰りは出口まで一直線ですぐに着いちゃった。 

 フィーが星に駆け寄って、星の中心に手を置く。わたしもその後に続いた。このまま大体十秒ぐらい待てば、いつの間にかテントの外、公園の芝生の上に出てるはずだ。

 だけどふと、フィーが振り返って目を見張って。

「ロコちゃんだ!」

 声を上げた。控室の入り口の近くにいたロコちゃんと目が合う。きっとこれから、動物たちの休憩スペースに行くところだったんだ。

「がんばってね、ロコちゃん! 応援してるからね!」

 と、フィーが手を振ると、ロコちゃんも大きく手を振り返してくれる。

「……?」

 だけどロコちゃんはふと何かに気付いた様に、十歩ほどこっちに向かって歩いてきて。それからしゃがんで、落ちていた何かを拾い上げて、目を見張る。

「フィーちゃん……!」

 と、大きな声で立ち上がったロコちゃんはフィーを呼んだ。

「ロコちゃん! ロコちゃん!」

 フィーも嬉しそうにぴょんと飛び跳ねながら、もっと激しく両手を振り返す。

「フィーちゃん…………! わ……」

 フィーちゃんも声を振り絞っている。

「ロコちゃん! 大好きっ! ロコちゃんっ!」

「わ……わすれっ……忘れてるよ……!」

「ロコちゃ――えっ?」

 ようやくフィーが動きを止める。

 ロコちゃんが持っていたのは……サーカスの、チケット。わたしは自分のローブの胸ポケットに手を入れる。ちゃんとチケットは入っている。と、いうことは。

「あっ、いけない! ごめんね、ロコちゃんっ!」

 慌ただしく歩いて来たから途中で落としたんだろう。フィーが慌てて走ってテントの中に戻っていく。

 と、そこで。

「わわわっ!」

 唐突にわたしの体はふわっと浮いて、明かりに包まれて……!

「きゃっ!」

 そのまま、ぽふんと尻餅をついてしまった。

「いたた……」

 軽く打ったおしりの上辺り、しっぽの近くを触りながら前を向くと、目の前にはあの大きな星、足元は芝生。見上げれば青空。

「あ……」

 そっか……わたしだけ、テントの外に出ちゃったんだ。

 ……まあ、良いや。その場にぺたんと座り込んだまま、フィーを待つことにする。きっと、すぐ出てくるだろう。

 肝心のチケットを落としちゃうなんて……フィーは、魔法を使っている時は殆どミスをしないけれど、それ以外だと結構ドジな所が有る、かもしれない。いや、まあ、まだ子供なんだから当然だろうけど……。

 晴れた空、まだまだ太陽は若干傾き始めたぐらいの時間。

 それでも多分、テントに入ってから二時間ぐらいは経っているかもしれない。

 何時から開演なんだろう? 気になって確認してみても貰ったチケットには、『開演時間 おひさまがしずんだとき』、というかなりアバウトな情報しか書いてなかった。『Qー13番』はきっと、座席の番号だ。

 あと、どれぐらいで始まるのかな。テントの入り口の前に、チケットを求めて並び始めている人達に訊こうかなって考えたけど、面倒だからやっぱりいいや……。

 膝を抱えてただ座っていると。

「ごめんね、うっかりしてた!」

 しばらくして大きな星が輝いて、目の前にフィーが現れる。その手にはチケットをちゃんと持っている。慌てて立ち上がって、フィーのそばに行った。

「始まる時間まで、街を回ってみようよ!」

 そしてすぐに、フィーはわたしの手を引いて歩き出した。




 ――それからフィーはわたしを連れて、フローラルウィンドタウンの色んな場所やお店を見に行った。仕立て屋さんで綺麗なドレスを眺めたり、本屋さんで好きなおはなしを探したり、雑貨屋さんで衣装やトランクを飾るアクセサリーを探したり――。

 思ったよりも、落ち着いた時間が過ぎていった。あちこちではしゃぎ過ぎるフィーに付き合うのは大変だったけど……。

 そして、段々と空がオレンジ色になっていくにつれて、また体が緊張して。

「それじゃあ、そろそろ行こうか!」

 また、広場のベンチで座って、足をぶらつかせながら休憩していたフィーが立ち上がって、手を差し伸べてくる。恐る恐る手を取って、また、サーカスのテントが有る公園に向かって歩き出す。

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