男の後悔※R-15G※
胸糞展開が嫌な人は読まないようにしてください
※ 後味の悪い鬱小説、直接的な描写は避けようと努力はしましたがグロ描写があります。
15才未満の方々の閲覧を推奨しません
男は自らの無学が招いた状況を、確かに後悔していた。
もともと男の頭はよろしくなかった。しかし表裏のない物言いと、無学なりに精一杯周りへの気遣いをやる事など、好感の持てる少年であった。
少年はいつのまにか青年になり、ある娘に恋をした。
娘はよく文を学び、よく母を手伝い、また容姿は今一歩でも朗らかな性格で評判の良い娘であった。
青年と娘はまるで蔓のように惹かれ合い、多くの時間を共に過ごした。青年は娘の慎ましやかな願望や小さなワガママをよく聞いていたし、同時にそんな娘の控えめな性格を好んだ。娘は青年の細やかな気遣いなど真摯な行動や、持ち前の性格できちんと自分を見ている事を好ましくおもった。
二人はいつしか男女の仲に発展し、互いの両親の承認のもとで多くの者に祝われて結婚した。
男となった青年はよく畑を耕し、家畜の世話を焼くようになった。女となった娘はよく男をたて、家を守っていた。
女はすぐに母となった。
男は父となり、一層仕事に励むと共に嫁への労りをするようになった。
少しして元気な男の子が生まれ、男は喜んだ。
子は健やかに成長し、母から文を習い、父の仕事を手伝うようになった。
子が成長し学校へ行かせることになった。
母の努力もあり子の成績は良いものだった。
そんなある日のことだった。
その日は男が夜遅くまで同僚とお酒を飲む日であった。同僚から子供や嫁が手放しに褒められ、男は喜んでいた。
会で酒を浴びるように飲む者もいたが、男は酔って帰り嫁に迷惑をかける事を嫌って少しすする程度であった。
会が中程になった頃、まだ素面の男は酔った同僚に絡まれるのに疲れて帰ることにした。月が頭の上に輝く、酷く暑い夜であった。
家に帰ると、窓から明かりが漏れていたのが見えた。
男はその日に人生で初めての後悔をした。その日に多くの涙を流し怒りで我を忘れ、男が正気に戻った時に空はすっかり白んでいた。
あたりは見知らぬ男と、必死に自分に泣きつく女、そして部屋の隅で震える息子がいた。
男は自分が怖くなった、その光景を見てもまた妻の裏切りと名も知らぬ男の蛮行への怒りがフツフツと湧き上がってきたからだ。男はかつて少年、青年、そして父として生きていた自分という人間が死んだことを悟った。
男は今は物言わぬ死体となったを担いでその場から逃げ出した。
男は近辺に銅鉱がある事を思い出し、裸足で野山をかけて行った。例え足が木の枝に貫かれ、毒虫を踏み抜き、鉱山に穢された川に浸かることになっても一目散に。
そうして瞬く間に男は陽に照らされた行動の入り口にたどり着いた。ここまで来て、男はふと躊躇った。ここに入れば2度と自分は妻に会えない気がする、子供は歪み傷つき陽の目を浴びる人生を歩むこともなくなるかもしれない。
悩み始めて10秒も立たないうちに後ろの茂みから物音がした、野生の猪だった。男は今のがもし鉱夫だったらと思うととても気が気がなくなり、転げ落ちるように洞窟に入った。
男が鉱山の奥深くにたどり着く頃にはとっくに日は昇っていた、もちろん暗い穴に入っている男には知るすべもないが。男はちょうどよい深さの穴を見つけ、死体と途中で見つけた新聞と灯油を注ぎ込み火をつけた。
やけになく男の頭が回ていた。例え完全に燃えずとも誰だかわからなくなる程度で良い、しっかりと全身に火が回るように良く油を染み込ませた新聞を下に敷かねば、少しでも良く燃えるように大きな石を下敷きにして隙間を作ろう。まるで側で悪魔が囁くように、今まで息子が学校で習った事を話していた知識など今まで気にもしていなかったうえ、もし自分が早く帰ることもなく何も知らないままのうのうと暮らしていたら一生思い出す事のない知識を思い出した。
今まで鍬や鎌しか握ったことのない無骨であった手が自然と動き、あっという間に死体を消した。そこで男は何を思ったか、まだ地獄の釜ような熱を持つ物を担ぎ、外へ飛び出した。
男が飛び出した穴は、入った場所とは少し小さい狭い穴だった。よくよく見れば照明も古いもので碌に手入れのされていない人気のない所だった。後ろからツルハシが打たれる音とトロッコの走る音が聞こえる。男の背筋を氷のように冷たい汗が走った。
それから男は目を焼くような陽射しを深い山林に入ることで遮り、小川沿いに焦げたそれを置いた。
しばらく男は何故死体をここまで運んできたのかジッと考えた。悩んでいても何も重いかばないばかりか、普段使っていない頭を無理に回したために腹が減ってきた。
男に当の本人でも震え上がる恐ろしい考えが浮かんだ。
その感情を裏切り、体は戸惑う事をせずに黒い炭に顔を突っ込んだ。
そこから男の記憶は再び酩酊したように漠然としたものとなり、また記憶がはっきりする頃にはあたりがすっかり暗くなり、男は灯りのない自宅に着いていた。
子はいなかった、妻は衣に塩をつけて倒れていた。
男は囲炉裏に火をつけ、自分と妻の汚れた身体と乱れた服を直し慣れぬ手で料理を始めた。
しばらくして妻が目を覚ましたが、お互いに黙ったままであった。互いの沈黙の中に箸と椀がカチカチガタガタぶつかる音だけが響く。
男が口を開いたが、何を行ったら良いのか分からずにそっと口を閉じた。女はそれを見て胸が握り締められたように痛み、静かに泣き出した。
男はまた深く後悔をして、血が出るほど唇を噛み締めた。男は自分に学があればここで何を言うべきか、そもそも最初に何をすべきだったかを分かるのだろうと考えた。だが性分として男は何かを思ったらそれを相手に伝えずにはいられなかった。自分の後悔を、懺悔をポツリポツリと呟いて行った。堰を切ったように二人は互いへの謝罪と自分の後悔を垂れ流した。
そうして二人は声がかすれ喉から血が出そうになる程に謝り続け、最後に妻が今まで自分のつまらない願いを聞いていた男へ何か自分へ願いはあるかと聞いた。
男はこう答えた。
そんな事はない。俺は働くことしか能が無いから迷惑をかけた、息子が昨日までお前が立派に育てていたのに俺が全てを台無しにしてしまったのだ。そこで頼み事なんてできるわけがない。どうしてもと言うのなら、俺はこの短い間で人の道をどんどんと踏み外してしまった。そして恐ろしいことに人としての俺は死んでしまったのだ。
情けないことだが、こうも落ちてしまった今でも鬼として生きていく事も怖がっている俺がいる。
鬼のような自分が外道として生きる事を諦めない。俺は自分が怖いんだ、俺は既に鬼に取り憑かれている。
だからどうか頼む、俺が愛したお前の手で俺をこの鬼もろともに絶ってくれないだろうか。
こんな俺がのうのうと生きることが許せない。
妻はそれを聞いて、貴方が鬼でしたら私は畜生のようなものです。私のせいで貴方を亡くしたのに私はそのままだなんて生き恥です。どうか自ら堕ちた私にお供させてくださいと泣きついた。
その夜に男がいた村で大きな火柱がたった。場所は村の中心にあった男の家から遠く離れてあった。
轟々と二つの芯を持って燃える、奇妙な火柱を見て村の鉱夫は鬼が出たと騒いだ。鉱夫たちは朝から坑道についていた血の足跡で怯えていた物で、そう考えるのも当然だった。
村人たちが引けた腰で駆けつけると、火はすぐに消えた。
後には黒ずんだ骨が二人分、抱き合った形で横たわっていた。
その村で消えた人間は子供1人と大人2人。その村で見つかった死体は大人3人分、全員炎に巻かれていた。
それは長く村人の間で怖がられ、いつしかそして忘れられた。
事の顛末は、鬼と畜生の子供でも知らない。
読みづらかったので話の中の荒筋
むかしむかし男女が結婚しました
子供も生んで幸せに暮らしてました
男が留守の間、女が初めて浮気しました
男が間男を酷い目に合わせました
それだけでは飽き足らずいわゆる鬼になりました
結局2人はそれを後悔して子供を置いて心中しました
投稿当日に字下げ処理を忘れてたので編集しました