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祭の最中(ルー視点)5

何してんだ?!


俺はらしくなく動揺して、屋根から飛び降りると驚いている周りの人間をそのままに、人垣の中へ分け入った。

足首まである淡い紫のドレスに、腰まである長いヴェールで髪を隠して、ミヤコが異世界の歌を歌っていた。

お腹に手を当て、喧騒に負けないように声を出しているが、なかなかに歌が上手い。


Γ美人だ…」


と、うっとりと言ったのは隣の男だ。さりげなく足を踏んでおく。

この人垣、大半が男だった。歌もいいが、ミヤコの見た目に惹かれて集まったようだ。

ランプの灯りに照らされて、綺麗な女が綺麗な声で、聴いたことの無い歌を歌っている。

それは魅力的だろう。

一番前まで来ると、俺は腕を組んでミヤコの歌に聴き入った。

ミヤコが俺に気づいて、僅かに声を詰まらせた。だが、すぐに平静を装って歌う。

どの曲も歌詞は勿論わからないが、全体に壮大な 感じで、テンポの早めの曲が多い。

ミヤコも初めは固い表情をしていたが、次第にノッテきたみたいで、最後は観客と手拍子をしながら歌う始末だ。

なんとなくムカつく。ニコニコと楽しそうに笑うその顔を他人に見せていることに。

俺は自分が狭量な心の男だと自覚しているから、それが嫉妬だとは分かっている。


歌い終わると、ミヤコは優雅にドレスの裾を持ち一礼をした。拍手の中、足元の袋にお金が次々と投げこまれていった。


*************


Γはあ、緊張したー。」

Γ………………いろいろ聞きたいことがあるが……」

Γルーは、何してたの?」


歌い切った爽快な表情でミヤコが俺を覗きこんだ。

Γそれはこっちのセリフだ。お前こそ…」


ミヤコが金が詰まった袋を二つ、重そうに持っている。

Γ少しは私も働いてお金を稼ごうかと思って…」


気まずそうにミヤコが言う。


Γ変に気を使うな。」


ミヤコに菓子の袋を渡し、代わりに両手に袋を持った。


Γわあ、何?いい匂い!」


菓子の袋に鼻を近づけて、期待に目をキラキラさせている。


Γ戻ったら……って、重いな」


にっこりと良い笑顔のミヤコに、つられて笑いそうになる。


Γそういえば、あの歌はどういう歌なんだ?歌詞がわからなくても、なかなか面白い曲だったな。」

Γあー、全部アニソンなの。」

Γあに、そ?」

Γな、なんでもないよお。いいじゃないの別に。」


よくわからないので、一旦袋を下ろして、てっとり早くミヤコの手を握ろうとしたら、


Γひゃああ!勘弁して下さい!」


おかしな悲鳴を上げて逃げようとした。


Γ何で嫌がる?」

Γわ、私の趣味嗜好が知られ…まずい、絶対教えない!」

Γ………ふうん」


シュルッ


Γあっ…」


ミヤコのヴェールを引っ張って取ると、ふわりと黒髪が揺れた。周りの人間達が目を丸くする。


Γああ!魔法使いだ!」

Γママ、魔法使いがいるよ!」


ミヤコが髪を手で押さえて、黒髪に戻した俺を驚いて見上げた。


Γ魔法使いの夫婦だ!」

Γああ、昨日の…!」


ざわざわと、また人垣に囲まれ始めて、いたたまれない表情のミヤコに手を差し出した。


Γ帰りたいだろ?ほら、俺が直ぐに帰してやるから来い。」


あにそん、というものが何なのか、ミヤコの手を握ってみたらわかるはずだ。


Γううー」


恨めしそうにミヤコが俺を見て、ためらいがちに俺の手を握ってきた。


『ブッセツマーカーハンニャー……』


Γまたか、なんだこれは?」


ミヤコは意識すれば、俺に心を読ませないようにできる。

諦めてミヤコを抱き上げ、彼女の腹の上に袋を乗っける。


Γうっ、おもっ…、あれ?この袋は、ルーの分?」

Γほんと、お前は…いつも俺の予想を越える」


キョトンとした顔で俺を見上げたが、苦い顔の俺を見てぷっ、と吹き出した。


Γそれは…ふふっ、誉め言葉かな?」


ミヤコの腕が、そっと俺の首にまわり体を預けてくる。


Γお前には、勝てる気がしない。」


クスクスと笑うミヤコの声が心地いいので、俺は潔く負けを認めた。

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