祭の最中(ルー視点)4
Γへへ、悪いな兄ちゃん。また勝っちまった。」
Γもう一度、賭ける。」
馬鹿め、わざと負けてやってるんだ。
俺は、テーブルの向かい側にいる大男に内心ほくそ笑んだ。
ここは、賭博場だ。昨夜、ミヤコと通りを歩いていたら、ここの情報を知った。ニッサは賭博は禁止のはず、つまり違法だ。
土産物屋の奥に、こんな所があるとはな。俺は心が読めるから、難なく見つけたが。
ついでに紹介がないと入れないと入り口で言い張った見張りは洗脳しておいた。
まあ、それなら賭博場の全員洗脳して有り金を直接頂くなんてこともできるわけだが、それは面白くないだろう。加えて、あいつも知ったら怒るだろうからやめておく。
この大男は、既に賭けで勝って、大金を持っていたから標的にした。
Γ次は、黒」
Γでは白だ。」
二つのサイコロの目が奇数なら黒に、偶数なら白に賭ける。俺は最初に一度勝ってから、その金を少しづつ賭けてわざと負けている。
Γなんだ兄ちゃん、もう賭け金底をつくんじゃないのか?」
へらへらと笑いやがって。こいつはサイコロ投げる店員とグルで、いかさまで勝ち続けていたのだが、俺が今は勝たせてやってるんだぞ。
Γはあ、そうだな。次に賭けるしかないな。これで最後だ。」
俺は全額だと言って、多めの金をテーブルに置いた。
Γ勝負に出るってか?じゃあ、俺も…」
調子に乗った大男がドサッと大金を置いた。
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Γまあ、こんなものか。」
二十分後、俺は両手に大金の入った袋を提げて街を歩いていた。あの後勝ちまくって……サイコロぐらい動かせるし、隠されたサイコロの目ぐらい読めるからな。
有り金はたいた大男は、最後に半泣きでイカサマだと叫んで俺に殴りかかって来たので、哀れ身も心もボロボロで道端に今も転がっているだろう。
思ったより早く金を手に入れたので、俺はミヤコに土産を買って帰ることにした。
通りには祭で、たくさんの出店が立ち並んでいる。何を買ってやろうか。
まだあげてない物がいいが…俺は靴屋をのぞいた後、下着屋の前に一瞬立ち止まった後通りすぎた。
Γダメだ、わからない。」
特にサイズが!これは測らないと買ってやれない。
うろうろしていたら、傍を若い男達が駆けて行った。
Γ早く行こうぜ、あの噴水の所の歌姫、めっちゃ可愛いってさ!」
そう言えば、少し先の辺りに人だかりができている。ご苦労なことだ。こういう時は稼ぎ時だな。祭で芸事をする者が集まって来ているのだろう。
興味無い俺は行かないがな。
あちらこちらで美味しそうな匂いがする。
Γああ、そうだった。あいつは食い気だった。」
結局俺は、小麦粉と牛乳とアーモンドの粉と卵を混ぜて油で揚げた菓子を3つ買った。そうしたら運良く隣の店が酒屋だったので、久しぶりに酒を買おうとした。
Γカニ―ラ酒を一本くれ。」
Γお客さん、未成年には買えないよ。」
Γ未成年じゃない、俺はかなり大人だ。」
ちっ、こういう時不老は困る。せめて二十歳越えの見た目で成長が止まれば良かったのだが。
Γ本当かい?」
店員の中年女性が、疑わしげな目を寄越す。仕事に真面目で結構なことだ。取り敢えず魔法を使い、俺はようやく酒を買えた。
Γ飲んで帰るか。」
俺は屋根の上に座ると、酒の瓶の封を切った。ミヤコと出逢う前は、毎夜飲んでいたものだ。魔法使いは酔ったりしない。だが、酒の味は分かる。
喉に染みる熱さは、束の間の平穏を心にもたらす。
Γ本当に久しぶりだ。」
酒を飲むのも忘れていた。あいつが常に側にいたから。今淋しがっていないだろうか。俺が帰って来たら喜ぶだろうか。甘えて抱き付いてきたらいい。これを飲んだら帰るか。
ちびちびと瓶に直接口を付けて酒を飲み、眼下の人の波を見下ろす。明日は贅沢させてやろう。
少し先の噴水のある広場には、やはり人だかりができている。先ほど男達が言っていた歌姫を囲んでいるようだ。中央に木箱に乗って立っている女が見える。頭に長いヴェールを垂らしていて顔はよくわからない。
飲みついでに、俺は魔法で近くにいる男の目を借りて、歌姫の顔を見てみる気になった。
Γ人気だな。」
酒を飲みながら、目を閉じる。
淡い紫のドレスの女の顔を、しっかりと見た途端、俺は酒をむせて吐いた。
Γぐほっ、げほっ!み、ミヤコか!?」