祭り初め3
あんなに賑やかだった周りの音が、僅かな時間しん、と静まり返った。
Γ魔法使いだ。」
Γ魔法使いがいる!」
ぽつぽつと人々が言い出したところで、私は目を開けた。
山車の前にルーが立って、片手をかざしていた。
車輪は静止して、馬が引っ張ろうとしても微塵も動かなくなっていた。
Γ無事か?」
ルーが山車をそのままに私を振り返った。手から子供が抜け出し、両親に走り寄るのを見て力を抜いた。
立とうとしたら、足が震えているのに気付いた。
Γやれやれ…」
掬うようにして、ルーがそんな私を抱き上げる。
Γあ、ありがと」
やっぱり助けてくれた。苦笑するルーを見上げて気付いた。たくさんの観衆の目が私達を見ていることに。
Γあ、あの!降ろして、なんか凄く恥ずかしい!」
ばたばたともがく私を、面倒そうに肩に担ぎ直して、ルーは周りを見回した。
Γさすがに目立ちすぎだな。ミヤコ、ここから翔ぶぞ。」
Γえ、まだ出店で食べてな…」
Γお待ちなさい。」
割って入った声に二人して見れば、山車から降りてきた老人がにこやかに近付いて来た。
周りの人々が口々に、領主様と声を掛ける。
Γ魔法使い様。子供の命を助けてくださり、感謝いたします。ニッサは、魔法使いを敬う国。恩ある貴方達を歓待します。どうかこのまま祭を楽しんでお過ごし下さい。」
領主が私に丁寧に頭を垂れた。
Γい、いえ」
担がれたまま、ルーの肩越しに言う。
端から見たら、間抜けな私。
白い髭を蓄えた領主は、しげしげと私達を見てにっこりして言った。
Γそれにしても珍しい。魔法使いのご夫婦とは…」
Γ……………」
Γ……えっと、あの…」
頬の熱を手で抑えた私は、ルーの肩が揺れているのを感じた。何か笑ってる?!
Γくっくっ…ああ、そうだ。」
Γルー?!」
Γ俺達は、魔法使いの夫婦だ。」
にやりと笑ってるだろう彼の背中で、私は恥ずかしさが最大値に達し項垂れた。
ぎゃふん……
Γふっ、勝った。ついにお前をぎゃふんと言わせた。」
ルーが、勝ち誇った顔を初めてした。