出会ったのは、黒髪の女2(ルー視点)
その女は、無防備にもほどがあった。
隣で男が寝ていても朝まで気付かず、挙げ句にすりすりと無意識に体を寄せて来る始末。
初対面の男の出す料理だって、もぐもぐと小動物のように食べてると思ったら、吸い込まれるように食べ物が消えて、皿だけになっていた。
どんな反応をするかと、女が寝ている間に適当に買ってきた服を渡したら、嬉しそうに着た。
それどころか、自分から俺の手を握ってこめかみに押し当て礼を述べる。
本当は近付くだけで、心の声は聴こえている。
手で触れたのは、自分の言葉を伝える為と女の心の奥深い所を探りたかったからだ。
感じられたのは、最初は戸惑いや不安。
それはそうだろう。いきなり喚ばれたのだ。
自分が現れた滝の辺り、一人泣きながら水面を見ていたのを、鳥の目を借りて見ていた。
白い素足を川に浸し、帰れないかと試していたのも知っている。
帰してやれないことはないが面倒だな、あの男の意図も知りたいしな、と思っていたら、戻ってきた女はどこか吹っ切れたようだった。
この世界のあらましを知りたがった女のために、再び触れた時には、少々驚いた。
心の奥に、俺を信頼して、すがり付くような好意を滲ませていた。
馬鹿だな。俺のことを知れば怯えて逃げ出すだろうに。
この世界の誰もが畏怖する俺に、そんな風に笑いかけていていいのか?
血で穢れた俺の手に触れられて、安心したような表情をするな。
女が…ミヤコが、俺に信頼を寄せ始めて来るに従い、苛立ちが増してくる。
早く拾ったこいつを捨てなければ。
いつか恐怖で俺を見る日が来る前に。
折角築いてきた穏やかな一人の世界を壊すな。
目に余るなら、消してやる。
漆黒の瞳に俺を映し、ミヤコは俺の話を興味深そうに聞いていた。
無防備な娘。
俺の物騒な考えも知らずに。