お前に敬意を11
甘さがなくてごめんなさい
ざっとだが深刻な容態の人を優先的に前に並ばせた。それから、子どもや高齢者を先にする。
レオの母親がそれを手伝ってくれた。
Γ熱があって」
赤ちゃんを連れた母親が言う。
喉の奥が真っ赤だ。咳と鼻水もある。体温計がないので、自分の体温と比較する。
Γ水分は取れてますか?」
Γ少しは」
Γ嘔吐はありますか?」
Γいえ。」
私は他に気になる点はないか、母親に聞いて風邪だと判断した。
Γ熱があるので、水分をこまめに与えてください。果汁とかお粥を少しずつでいいので食べさせてあげて下さい。大丈夫ですよ、子供は回復も早いから、ゆっくり休ませてあげて下さい。はい、次の方。」
子供の魔法使いに見えているのだろう。私を見る人々は期待や好奇心、或いは疑わしげな眼差しを向けている。
Γ背中にできたコブが痛くて…」
中年の女性の背の辺りの服を軽く引き上げ、タオルで隠しながら診ると、真っ赤になって盛り上がった部位があった。触ると熱をもっている。
Γどこかでけがをしました?多分その傷に細菌が入って膿んだようですね。」
私はレオ君の母親に、小型のナイフを取ってきてもらい、側のランプの火で刃先を炙った。
いつの間にか、もう日が暮れていた。
Γお前は、何をしている。」
頭の上から降ってきたルーの声は苛立っていた。
Γ治療しているの。」
Γ見ればわかる。わかっているのか?こいつらは自分のために、お前や魔法使いを利用しているだけだ。そんなことをすればキリがない。魔法使いは、そうやって搾取され、利用され続ける。」
Γルー、そこの布を取って。」
炙った刃をコブに当てる。
Γさ、さすの?!」
女性が怯えて聞いてくる。
Γちくっとするだけです。」
そう言ってる間に、浅くコブの表面を切っていた。女性は気付かなかったようだ。渋々という感じで手渡してくれたタオルで、傷を押さえる。
じわあっ、と黄ばんだ膿が滲みてきた。
Γ聞いているのか、ミヤコ」
Γちょっと待って」
ある程度膿が出たのを見計らい、私はコブの傷に口を付けると膿を吸った。
Γそんな、汚いですよ!」
女性が焦ったように言う。
Γ全部膿を取った方がいいので…こうすると痛まないでしょ」
何度か吸って、タオルにそれを出してを繰り返し、綺麗な水でコブを洗う。
Γ薬屋さんで消毒する物があれば、それで傷を清潔にしてください。はい、終わりましたよ。」
Γあ、ありがとう。楽になりました…」
語尾を震わせて、女性が何度もおじきをしながら帰っていった。
汗を拭ってからルーを見上げると、茫然とした彼がいた。
Γ……なぜ、そこまでする。」
Γ目の前に困った人がいる。私には少しだけ力になれることがある。それじゃあ理由にならないかな。」
次の男の人は、足を骨折していた。
宛て木と包帯を探していたら、ルーが骨折部位におもむろに触れた。
Γ治った、行け。」
Γあ、ありがとうございました。」
歩く男性を見送り息をついた。
Γありがと、今のは難しかったから助かった。」
Γお前と落ち着いて話もできないからな。」
憮然としているルーに微笑む。
Γ皆、必死なんだよ。大事な人が傷ついたりしたら、何がなんでも助けたいと思うでしょう?私、ルーが同じように怪我したら、この人たちみたいになりふり構わず助けて欲しいって思うよ。おんぶしてでも連れて来ちゃうよ。」
虚を突かれたような顔で、ルーは私を見つめた。
Γ怪我など…」
Γうん、でも皆の気持ちはわかるから。ルーだってそうでしょう?」
Γ………」
ルーは私の足の傷をじっと見てから言った。
Γお前の好きにしろ。だが、俺は何もしないぞ。見ているだけだ。」
Γ勿論、私が引き受けたんだから私がするよ。」
顔を横に傾げて、列の最後尾を確認する。
まだ30人ほど並んでいて、新しく列に加わってくる人もいる。
これは徹夜を覚悟しなきゃ。
Γうん、がんばるぞ!」
気合いを入れ直し、次の人を呼ぶ。
Γ……少しだけなら、手伝ってやってもいい」
ルーが同じように列を見て、苦い顔で呟いた。