お前に敬意を4
Γルーが触れなくても、私が掴まっていたら翔べたね。」
ルーの腕から手を離し、私は得意気に言った。
Γ…ちっ」
朝からご機嫌斜めのルーは、小さく舌打ちするとスタスタ歩き出した。
一様に白い家が連なり、坂道があったりして起伏がある道だ。道の横には海岸が広がっている。
青い海。青い空。さんさんと輝く太陽。暑い。日に焼けちゃう。
そんなことを考えて歩いていたら、ルーがさっさと前を行っている。
Γ早くしろ。置いていくぞ。俺はお前に触れないからな。知らないぞ。」
恨みがましく言われて、腹立たしさを堪えて、走って追い付こうとした。
そして、転んだ。
Γいったあ…」
足を軽く擦った。恥ずかしい。子供じゃあるまいし。起き上がろうとしたら、目の前にルーの手があった。
Γ平気だから。」
その手を無視して立ち上がった。見ると、何人かの人が私達を見て驚いた顔をしている。私は髪を隠していない。事前に、ルーからこの辺りが魔法使いに寛容であることを聞いていたからだ。
彼らは遠巻きに見ているだけだ。何を思って見ているのだろう。
Γ……」
ちらっと足の傷を見て、ルーが眉をひそめた。
土を払って歩き出した私の隣をルーはゆっくりと歩いてくれた。気遣う素振りを見せる彼に、許してしまいそうになって困る。
Γここだな。」
直ぐに一軒の家の前で止まった。
Γ遅かったですね。」
玄関にリュカが佇んでいた。
ヒュッヒュッ、と空気を切り裂くような音がした。リュカを目掛けて風の刃が襲いかかる。
それを結界で防いだリュカは、当然予想していたように表情を変えない。
Γ挨拶もなしですか?」
Γああ、気にするな。俺は少々気分がよくないだけだ。」
ひやりと冷たい声音を出すルーは、私の知ってるルーじゃないみたいだ。頭一つ分、私より高い彼の凛とした横顔を見上げると、ルーは私を見てから、ふいっと目を逸らした。
Γミヤコ、元気そうですね。」
Γリュカ…」
Γルシウスに酷い目に合ってませんか?」
Γえっと、何とか大丈夫です。」
Γ……何とか?」
ルーが小さく反芻した。私は、リュカに促されるままに、家の中に入った。
そこには、小さな女の子がぽつんと立っていた。
Γこんにちは。」
屈んで声を掛けると、信じられないといった顔で、
Γ皆さん、魔法使いなんですか?」
と、口許を手で覆った。
大人びた口調に違和感を持って、私が首を傾けると、ルーが納得したように言う。
Γそうか。これは魔法だな。」
Γええ、彼女はこの子の母親です。魔法使いは、こちらの…」
リュカが背をそっと押すと、女の子の後ろに隠れるようにしていた男の子が顔を出した。
Γこの子が魔法使いです。名前はレオ。特殊な魔法は、退行ですね。」
布で両目を巻いて隠している男の子は、母親だという女の子と同じくらいの歳だ。
Γええ?」
よくわからない。私が、レオと言う名の男の子に近寄り、その顔を覗きこんだ時だった。
シュル
リュカが素早く男の子の眼帯を外した。
Γミヤコ!」
まともにレオの赤い瞳を見た。急に視界が変わった。見下ろしていたレオが、同じ高さの目線になっていた。
Γあ、あれ?」
服がブカブカになって、私はそこに埋もれるようになっていた。
Γリュカ、どういうつもりだ!」
怒気を孕んだルーの声に、リュカはクスッと笑った。
Γ私と取引をしませんか?ミヤコ。」