魔法使いの胸の内(ルー視点)
閑話的話
誘っているのだろうか?
いや、騙されるな。こいつはそういう方面は何にも考えていない。
俺は、裾をたくしあげて泉に足を浸けるミヤコを見ていた。この世界では、俺の知る限り女が足を、膝上まで他人に見せることはない。
無防備すぎやしないか。白い太腿までちらちら見えていて、つい目がいってしまう。
Γ暑いね。次は涼しい所に行こうね。」
足で水をパシャパシャさせて、それなりにご満悦のようだ。
ここは、砂漠の中に涌き出た泉がある…ミヤコ曰く、向こうでいうところのオアシスという場所らしい。
ヤシの木などの実のなる木々が生え、水を飲みに鳥や小動物が集まる。
俺達以外に人の気配は無いが、近くに焚き火の跡があったので、休憩を取る旅人もいるのだろう。まあ、俺は野宿はしないがな。ルルカ侵攻以来野営はしていない。不自由なことはしない。
気がついたら、ミヤコが口を閉じて、どこか遠くを見るようにぼんやりしている。
またか。たまにだが、ミヤコはこんな風にしている時、大抵向こうの世界に想いを馳せている。
それを見る度に、苛立ちと焦燥が俺の心を占める。いや、これは嫉妬かもしれない。
こんなに近くにいるのに…。俺を見ろ。他のことを考えるな。俺だけを想っていればいいのに。
ミヤコには家族があって、幸せに育てられたのだろう。だから、こんな風に想いを馳せてしまう。それが分かる。
俺にはそれがない。彼女しかいない。俺とミヤコの熱の差は、おそらくこれだ。
醜い欲だ。彼女の全てをこの手に入れて、独占したいという欲だ。だが、それをさらけ出すことは本意ではない。
泣き虫な彼女の涙を見ると、自分の胸が抉れるようなダメージをくらう。
これが愛情というもののせいなら、なんてままならない感情だろう。彼女を強く欲するのに、傷つけるのを恐れるとは。
遠くを見ているミヤコは、急に遠くに行きそうで不安だ。岸に置いたその手を掴むと、ハッとした彼女が俺を見た。
Γあ、ルー、なあに?」
Γ何を考えている。」
手を通して、次々と彼女の思考が浮かんで伝わった。
母、父、弟…、友人、近所の人間、教師、果ては通学途中に出くわす犬まで。それに…
Γ……誰だ?」
Γ何?」
Γお前に気のある男がいたのか…」
Γ…えっと、竹山君のこと?」
ミヤコが気まずそうに、視線をさ迷わせた。
『藤川、俺とお付き合いして下さい。ずっと…気になってて、好きなんだ。』
男がミヤコに告げる光景を、俺はしっかりと読み取っていた。
濡れた足を泉から引き上げて、ミヤコがそろりと服を下ろして、その白さを隠した。
頬がほんのりと赤く染まるのを見て、いろんな感情が噴き上がりそうなのを堪える。
俺は、いつまでミヤコに優しくいられるだろう。
こんなにも狂暴な想いを抱えて。
次回、ミヤコは狼を操る