旅立ち9
Γごめんね、力使わせてしまって。」
Γ別にいい。」
時計台の頂きで立ったまま街を見下ろしているルーを見上げる。私は高い所が怖くて、座ったまま彼の服の裾を掴んでいる。
Γ嫌じゃなかった?その力は…」
ああ、と私の言いたいことに気付いたルーが頷く。
Γ奪った力だが、既にこれは俺の力だ。だが、人の意思を変えてしまうことに抵抗がないといえば嘘になる。」
Γごめんね。」
Γこうすることで、お前が泣かなくなるならいい。」
言われて胸がぎゅっとなる。おもむろに裾を掴んでいた手をルーが取った。
Γ褒美は?」
Γはい?」
Γ俺に礼はないのか?」
にやりと意地悪く笑い、彼の顔が近付いてきたので、私はわたわたとごまかした。
Γふ、ふっ、ルー。なんのことだい?」
Γ………」
むっとしたルーが、男装したままの私の頭から布を剥ぎ取った。
Γふわっ!」
Γ女を忘れたなら、俺が思い出させてやろうか?」
じりじりと彼の顔が迫ってきて、思わず目を瞑った。
ん?
Γな、なに?」
Γじっとしてろ。」
耳に違和感を感じ、手で触ってみた。
Γこれ…」
Γ長いこと見ていたな。」
もう片方が私の手のひらに置かれて見れば、それはアクセサリー屋にあった銀のイヤリングだった。
Γルー」
Γ御礼は?」
赤い顔の私に、楽しそうに畳み掛けてくる。
私は意を決して手を伸ばした。
彼の肩に手を置いて、頬に掠めるようなキスをした。
Γありがと。嬉しい…」
Γ………まあ、いい。」
物足りなさそうな顔のルーが、もう片方を私の耳につけてくれた。彼の息が首にかかり、ドキッとする。恥ずかしくて、離れようとした私を素早く腕に閉じ込め、ルーはその背中を上下に撫でてきた。
猫になった気分。なんだか落ち着く。
Γねえ、ルー」
Γなんだ?」
Γ次はどこに行こうか?」
背中の手が止まった。
Γ帰らないのか…」
Γえ?なんで?まだ旅は始まったばかりだよ。」
Γお前…、誰が旅費を出していると…」
Γえ、何?」
Γ………」
Γ私、この世界に来てからずっと王宮にいたから、旅をしてこの世界のことがいろいろ見えてきてよかったと思うの。見聞を広めるのって良いことだね。」
溜め息をついているルーにぎゅっと抱きつく。
Γありがと。一緒に来てくれて。だ、大好きだよ。」
止まっていた手が動き出して、私の背中をまた撫で始めた。
Γミヤコ。」
Γん?」
Γ洗脳されてるのは俺の方かもしれない。」
Γうん?ふふ、くすぐったい。」
ついっと脇腹を撫でられて、こそばゆくて笑った。
一度間違えて全部消してしまい、ショック。なんとか更新。次回、振り回されるのは魔法使いの方。