旅立ち8
早朝の清涼な風の吹く時計台。
その頂きにルーは立ち、街を見下ろしていた。
やがて目を閉じて、自らの額に手を置いて、意識を集中させる。
Γ……」
ゆっくりともう片方の手を前に突き出すようにして、赤くなった目を開いた。
街の人々に、洗脳の魔法が降り注いだ。
それは誰にもわからずに、彼らの思考を改変していった。
***************
Γミチル?」
Γまた会ったね。マリー。」
日の高い内から出歩いている彼女に微笑む。
Γ明日、ここを離れて別の所へ旅に出ようかと思うんだ。」
Γそう。気を付けてね。」
ちょっぴり残念そうに、マリーは私を見た。
Γ弟さんは風邪どう?」
Γうん、昨日よりよくなってる。外で遊びたくてうずうずしてるわ。」
Γそう…そうなんだ!」
弟に、とマリーはリンゴを一つ買った。
Γ家まで送るよ。」
Γありがとう、でも昼間だし、大丈夫よ。」
先日の襲われかけたことを忘れたマリーが、遠慮がちに言った。
Γん、わかった。」
Γさっき仕事を紹介してもらいに行ってたのよ。
」
Γそう。」
Γ明日から、花屋の手伝いをするの。それでね、お金を貯めて弟を学校に行かせたいの。私もいつか独立して服屋の店を出したい。」
Γいいね。応援してるから。」
マリーが私の手を握ってにっこり笑った。
Γミチル、その時はお客としておいでね。」
Γうん。必ず行くから。」
涙を堪えて微笑んだ。
そんな私を見て、マリーは顔を赤くした。