旅立ち6
そうだった、私男の格好してたんだった。野郎なんて言うから、自分じゃないと思っていた。
Γえっと、何か用ですか?」
Γとぼけんじゃねえ!昨日はよくもやってくれたな!」
しょっぱから、怒り心頭らしい。昼間だから、周りに人はいたけれど、ただならぬ雰囲気に皆逃げていった。関わりたくないというお国柄なのだろうか。少々薄情。
Γすいません!誰か役人さんか警察呼んでください!」
Γ助けが来るわけないだろ!」
Γやっぱり警察とかないのかな。」
もう、仕方ないな。
Γあんた、また怪我したくなかったら…」
私は虚勢を張ろうとして、口をつぐんだ。
男が手招きしたら、仲間らしき奴が二人増えたからだ。
Γ落とし前つけてもらうぜ。」
笑いながら私の胸ぐらを掴もうとした男に、チョキの指を繰り出した。
Γわわわ」
Γっぐあ」
私は運が良い。試しにやってみた目潰しで、男が悲鳴を上げて転がった。
そして、手を洗いたい。
気持ち悪い感触に手を振っていたら、驚いていた残りの男達が、二人して私を捕まえようとした。
Γこいつ、黒髪だ。」
Γ捕まえろ!」
後ずさりながら、頭に手をやると、さっきの目潰しで隠していた布がほどけたらしい。
Γあっ」
Γ血を取れ、高く売れる。あと証拠に髪でも眼でも引っこ抜け、保証書代わりだ。」
その言葉にぞくっとした。生理的な嫌悪に、体が震えた。
男達の手が伸びて、私に触れる直前にぴたりと止まった。
Γなんだ、これは?」
ベタッ、と、私の目の前に何か見えない壁があるようで、男達はパントマイム状態だった。そして、唐突に吹っ飛んでいった。
Γ汚い手で触るな。」
固まっていた私を自然体で抱き上げて、ルーは見えなくなった男達に言った。
Γ…ル、ルー」
Γ気が済んだだろ。どうだ?島に帰るか?」
私の頭に引っかかっていた布を捨て、ルーは目を細めた。
Γこの世界には、見聞きしない方が良いこともある。嫌な思いをするなら、島にいた方がいいだろう?」
ふっと笑うルーを見上げて、そろそろと彼の首に腕を伸ばした。
ぎゅっ、と抱き付いて顔を埋めた。
Γうっ、ふえ」
Γまた泣くのか。」
Γどうして、こんな…」
Γ何がだ?」
Γ魔法使いだからって…ぐす」
えぐえぐと泣く私のこめかみを指でなぞり、ルーは笑った。
Γお前…、俺のために泣いてるのか?」
Γうくっ、人間と違うからって、酷いこと、ひっく」
ああ、上手く言葉にできない。
Γいつか、私、人間も魔法使いも、仲良く暮らせる、世界にしたい、ひっく」
Γ…ああ」
Γ皆、幸せに、ぐすっ」
Γそうか。」
ルーは、私を見たまま言った。
Γそれが、いつか魔法使いになった時のお前の望みか?」
Γえ」
顔を上げると、いつの間にか宿の部屋にいた。椅子に座ってルーは私を横抱きにしたままだ。
Γもう逃げるなよ。」
私はゆるゆると首を振った。
Γでも、私が魔法使いになる時は…」
Γミヤコ、予知は決定ではない。全てを信じるな。」
赤い瞳が、黒く変わっていく。私を真っ直ぐに見つめ続ける。
Γあの男の視る予知は、未来の一場面を視るに過ぎない不確かなものだ。行動で回避できる場合だってある。だから、俺は予知は信じない。それに奴が何か企んで、お前にその予知かどうかもわからない話を信じさせようとしている可能性もある。」
Γでも、本当だったら?」
ポロッと零れた涙が唇に入るのをそのままに、私は聞いた。
Γ本当に私が、ルーを殺すのだとしたら…」
Γ本望だ。」
ルーは私の唇にそっとキスをした。
Γお前に殺されるなら、それでいい。」
Γルっ、ん…」
再び重ねられた唇は、熱かった。
押し付けるような唇がゆっくりと離れた時、ルーはいっそ清々しく、にやりと笑っていた。
次回、ちゃんとストーカーしていた