優しさと温度2
Γ傷は跡形も無く消え、体力も回復されたようです。長距離移動にも差し支えないでしょうから、お帰りになられてもいいでしょう。ジーク殿。」
Γこれはどういうことですかな?リュカ様。」
腕の火傷が癒えたのを確認し、椅子に座ったジークはリュカに非難の目を向けた。
Γあの魔法使いが王宮に侵入するとは、あなたの結界も大したものではない。その上、私を護れず怪我を負わせた責任、どうするおつもりか?!」
Γ申し訳ありません。ですが、あれは私よりも上位の魔法使い。私にも力が及ばぬことがあるのです。」
無表情で謝罪するリュカに、ジークは鼻を鳴らした。
全く表情の出ぬ男だ。いつも何を考えているかわからない。
Γそれで…あなたはあの魔法使いを怒らせるようなことを、何かしましたか?」
Γ……何もしていない。」
Γそうですか。」
そうだ。なぜあの魔法使いが怒るのだ。
一言だけ発したあの言葉。あれが本当なら…
Γリュカ様、彼女は連れ去られたままなのですか?」
Γ…ええ。」
これは、使いようによっては…
Γジーク殿。」
口角を上げたリュカが、腕をさっと一振りすると部屋が白く光り、二人を囲んだ。
Γな、何だ?!」
Γ少し内緒話がしたいので、防音の結界を張りました。」
すうっと音もなくリュカがジークに寄り、薄く笑って囁いた。
Γミヤコが、どうやって最高の魔法使いになりえるか…あなたには教えてあげましょう。」
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Γ帰ったのかい?あのうるさいお兄さん。」
Γええ。」
ローレンが書類に目を通しながら、横で書類の分別をしているリュカに聞いた。
Γそれで、どういうことかな?」
Γ何がです?」
手を動かしながら、リュカは知らぬ振りをしている。
Γんー、ミヤコの貞操の危機とか、結界破られたとか、兄さん丸焼きのこととか。」
Γ言い方が、直接的ですね。もう少し上品に。」
ペンを指でくるくる回して、ローレンはリュカを見上げた。
Γねえ、リュカ。なぜ視ていただけ?」
Γ…………悪いようには転がらなかったでしょう?」
目だけを上げて、リュカはローレンを見た。
Γ全ては予知のため?」
Γええ。」
Γ全てはルルカのため?」
Γええ。」
ローレンにだけ見せる、子に向けるような微笑み。そんなリュカの表情に、王はやれやれと肩を竦める。
Γ僕は、リュカのそういう態度が嫌いだ。」
Γそれはそれは。」
回していたペンを止めて、ローレンはにっこり笑った。
Γねえリュカ。」
Γはい。」
Γ僕を裏切ったら、殺すよ?」
次回、翻弄される魔法使い