優しさと温度
Γ…くふ、ふ、ふふっ、くすぐったい。」
目を開けると、鎖骨の辺りにルーが顔を引っ付けていた。
Γなあ?!」
Γ起きたか。うるさい。」
平然と顔を上げて言われて、私は目をしぱしぱした。どうやら腫れているみたいだ。
Γ腫れたな。」
見られたくなくて、手で目を隠す。
Γな、何かしてた?」
Γいい匂いだな、と。」
私の手をどかして答えながら、ルーが目に手を軽く触れた。ふわっと暖かくなり、直ぐに目が楽になった。
Γありがと。」
ん?いい匂い?何?くんくんしてたの?
身体を起こして、言葉の意味を考えていたら、私の頭にルーが顔を寄せた。
Γな、なあに?」
Γ…別に。」
髪に顔を埋めている彼に悪意は感じないので、大人しくしていた。そうしたら、昨夜のことを思い出して恥ずかしくなってきた。
私、必死だった。けれど心の内をさらけ出すのは、裸を見られるのと同じくらい恥ずかしかった。
私はやっぱり顔を手で隠した。
Γ何だ?」
Γ……何でもない、です。」
顔を覆う手の甲に、そうっと柔らかいものが触れた。驚いて浮かした手をルーの手が包む。
さっきのがキスだと気付いた時には、頬にもう1つされて、額にされてまぶたにされた。
Γ…えっと」
Γ朝飯ができてる。起きてこい。」
ふっと笑って、ルーがリビングに歩いて行った。
Γ…………。」
茫然としてそれを見送り、キスされた頬に手を置いた。ふわふわした気分。
昨夜、気が抜けてわあわあ泣き出した私を、隣でずっと抱き締めてルーは一緒に眠ってくれた。
悪かったと…。もう怖がらせたり、嫌なことはしない、そう優しく言ってくれた。
あの人が、そんな風に言ってくれて嬉しかった。伝えられて、本当に良かった。
どう思ったのかな?
ベッドを降りると、扉の近くの椅子に何か掛けてあるのが見えた。何だろうと手に取ると、ダークブルーのワンピースだった。
またもや用意してくれたんだ。
そう思うと、嬉しくて恥ずかしくて笑ってしまった。
着替えて、リビングに顔を出す。
既にご飯がテーブルに並んでいた。
スープを置いていたルーが、私をちらっと見てから顔を逸らした。
Γ座…」
Γありがと、ルー。」
とことこと近づいて、にっこり笑って言ったら、何とも複雑な顔で私を見つめてきた。
Γ…お前は、本当に俺が…」
Γん?」
首を傾げたら、私の両側に彼の腕が伸びて背中に回り、柔らかく抱き寄せられた。背中をさすられて、優しい温もりに、恥ずかしさよりも幸せ度が勝った。
Γルー。」
Γ……。」
返事の代わりに、背中の手に僅かに力が込められて、私は更に抱き締められた。
昨夜の途中までの彼とは違う、労るような、慈しむような優しい抱擁。
私も彼の背中に手を回して撫でてみる。
彼の胸の辺りに、頬をすりすりしたら、私の首筋に唇がそっと押し当てられた。
Γふ、ふふっ、くすぐったい。」
くすぐったくて首を動かしたら、動くなと言われた。また唇が首に寄ってきて、吐息がやっぱりくすぐったい。
Γご飯食べてもいい?」
そう聞くと、ゆっくりとのろのろした動きで、ルーの手が弛んだ。
Γ…どうぞ。」
次回、久しぶりローレン。