熱と自覚と7
『ルー、たすけ、くれて、ありが』
Γ……。」
『ご飯は、わたし、する』
Γ…。」
『かりは、つくたくな』
Γ字、間違ってる。」
むむう!
筆談していた私は、ルーの前からメモを下げた。だって、書くのは習っている途中だったの!
気分を害した私は、頬を膨らました。
そんな私を見て、ふっ、とルーは余裕の笑みを見せた。
Γ喋ったほうが早いんじゃないのか。」
私は自分から折れたりしない。
『NO!』
Γ何だ?」
ふんだ、読めないでしょ。
優越感を感じ、ふふん、とドヤ顔をしてやった。
それから、トストスと玄関を降りた。
Γ…どこへ行く?」
言わなくても、どうせ魔法でわかるでしょ。
あっかんべーは、さすがに幼稚かと思い、つんっとわざとらしく、そっぽを向いてやる。
Γくっ」
悔しげなルーを横目に家を出た。
散歩行こう。こう小さな空間に、男女二人で神経戦はなかなか…ドキドキが辛い。一緒にいたいのは私も同じだけど、閉じ込められるのは嫌だ。
私は彼と対等でいたい。融通の効くものじゃないとちゃんとわかって欲しい。
わがままかな?ううん、それなら彼のほうが勝手だ。あまり人と接したことがないからかもしれないなあ。
家の裏手の道を歩き、山に差し掛かる所で迂回するように左に道を逸れてみた。以前の記憶からすると、山の後ろは海のはずだ。
森を歩き、茂みを掻き分けて20分ほど歩いただろうか。
草を掻き分けると、急に視界が拓けて海岸が姿を現した。
さらさらの砂を踏みしめて、波際で海岸線を遠くに見る。
何も陸は見えない。
Γやっぱり、島なんだ。」
ルーの意志を動かさない限り、私はここからどこへも行けない。
Γペットじゃないから。」
靴を脱いで裸足になって、浅瀬に足を浸けてみた。今は夏。海は生ぬるい暖かさだ。
着飾ったドレスでは動きにくいので、またしてもルーが用意した、これまた白いワンピースを仕方なく着ている。
私は溜め息をついて、膝下の丈を手で濡れないように軽く持ち上げて、海岸線をぼんやりと見つめ続けた。
細い雨が降りだした。
次回、魔法使いだと思い出したルーの逆襲。