熱と自覚と5(ルー視点)
どうかしてる。
俺は自らの家のソファーに座って目を閉じている。閉じた瞳には、闇ではない光景が見えている。
ジークとかいう男とミヤコが食事をしている。
ひじ掛けに拳を置いていたが、苛立つ気持ちのままにその手に力が入る。
どうかしている!
熱があるんだろ?なぜ断らない!
いや、違う。どうかしてるのは、この俺だ。
俺は予知を信じたわけではない。だが、あの女が俺を殺すかもしれないと知っていながら、何をしているんだ、俺は…
Γ救いたいの」
切ない表情で、はっきり告げた女に、俺はひどく心を揺さぶられた。
隙を付いて手を掴んだ時には、向けられた優しい好意が伝わった。
はにかむように微笑む彼女は、俺には眩しくていたたまれないほどだ。
雨を眺める彼女の横顔は、穏やかで静かでとても…美しかった。
ふと、こっちを見て欲しいと思った。自分だけを見て欲しいと。いや、本当はだいぶ前から思っていた。
顎を掴んで、こちらを向かせたら、驚いて少しだけ開けた唇が欲しくなった。
果実のように赤い唇は、どんなに柔らかいだろう。ふらりと引き寄せられて、戸がノックされて我に返った。
どうかしている。
俺を殺す予知のされた女に…
おそらく互いの境遇に同情して、勘違いしているのだろう。それに、女が最高の魔法使いになるのか興味があったから、何度も助けただけ。
距離を置いて、冷静になろうと考えた。
それなのに、苛立ちは増すばかりだ。
瞳に、ミヤコの手を握る男が映る。
なぜ俺がこんなに苛立たねばならない。関係無いことだ。あいつが、何されようが…
酒を飲んだミヤコは、無防備過ぎだ!
いいように男に体を触れさせやがって!
ぐったりしたミヤコを抱えて、いやらしい笑いを浮かべた男がベッドに歩いて行く。
は、知るものか。食事を断らなかったあの女が悪い。
Γル…」
苦しそうにミヤコが俺を呼んだ。
Γああ!くそっ!!」
耐えていた怒りが堰を切った。目の前が赤くなるような怒りに、我を忘れて翔んでいた。
バキッ
思いっきり男の足を蹴り上げて、男が倒れる前にミヤコを引ったくるように取り返した。
意識の無い彼女を胸に抱くと、やっと安心感が心を満たした。
誰にも触らせない。
俺はこの感情を受け入れることにした。
ミヤコを両手で自分に押し付けるように抱き締める。熱くて柔らかい体に、どうしようもない独占欲が沸き上がる。触れていいのは、俺だけだ。
床に転がった男が、信じられないといった顔でこちらを見上げてきた。
Γな、なぜっ!?」
自分でもそう思った。だが、予知など知ったことか。今はただ…
Γミヤコに触るな。この女は俺のものだ。」
自分の気持ちを優先するまで。
虜になったのは、誰だ?