熱と自覚と4
とにかくブンブンと首を振って、カリーザ領主奥方の件は拒否。まあ、ローレンの冗談だろうけれど。
そこで、疑問が浮かんだ。
Γあのう、ローレン。」
Γなんだい?」
Γ私って、この世界では美人に見えてるのかな?」
Γえ、そこ?今更?」
ローレンが苦笑した。
Γねえ、王宮の男達の熱い視線に気づいてないの?その色合いを抜きにしても、君は人目を引く美女だよ。」
Γ…えへへ、そうなんだ。」
Γ向こうの世界ではどうだったの?もてた?」
Γえ、いやあ、あ、でも…」
ローレンが、身を乗り出すようにして聞いてくるのを、何でもないと話を終わらした。
こんな話してる場合じゃない。
Γそのジークさん?との食事断ったら、もしかしてローレンに何か不利益があるんじゃないの?」
Γうーん、広大な領地を所有する、影響力のある領主だから、良好な関係は保っていたいけど…」
私は考えた。グラディアでは、ローレンに迷惑を掛けている。王妃との件は、私に責は無いと彼は言ってくれたけれど、謁見の時の私の態度はまずかったと思っている。ルルカに帰る時、サラがこっそり、大勢の前で堂々と発言されて父上は感心していたわ、とフォローしてくれたのは気持ちを軽くしてくれた。でも、ローレンは私を庇護するだけで負担になっているのは否めない。
Γ食事、するだけだよね?」
Γまあ、多分。でも熱あるし断れば…」
Γお受けします。食事ぐらい平気だから。」
Γ…そう、ありがとう。」
ローレンが、困ったような嬉しいような複雑な表情をするのは何故だろう。
その日の夕方には、私はジークと食事をすることが決まり、それまでに体を休ませようと昼寝をした。でも、熱は下がらなかった。体温計が無いので正確にはわからないが、逆に上がったような気がする。
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Γミヤコ、私との食事を受けてくれて感謝します。」
Γいえ。」
淡いイエローのドレスを着せられておめかしさせられた私は、戸惑いがちに椅子に座った。
案内されたのは、ジークの部屋だった。私に宛がわれた部屋と同じくらいの広さだろうか。長テーブルに沢山の料理が並んでいる。向かい合わせに私とジークが座っている。
Γカリーザ家抱えのシェフに作らせたんです。どうです、美味しいですか?」
Γ美味しいです。」
綺麗に飾り付けられたサラダを、ちまちま食べる。熱が上がった私は、食事より横になりたい。
ご飯も美味しいけど、ルーの作る料理がやっぱり一番かな。ルー、また来るかな…。顔を合わすの恥ずかしいな。
ジークの領内は、地下水が豊富で、それを利用した農耕が盛んな話とか、自分は王立学校を首席で卒業した話を聞きながら、私はつらつらと思いを馳せて、食事をしたら早く帰ろうと思っていた。
すっと手を握られた。
Γミヤコ。」
Γは、い?」
Γ初めて会ってから、あなたのことばかり考えています。私と結婚して下さい。」
Γへ?」
昨日会ったばかりで、早くない?!
Γあなたが好きです。愛しています。」
熱っぽく視線を向けられ、驚いて手を離そうとした。一旦、手を放したジークはテーブルを回り、私の隣まで近づいて来た。
Γ食事をするだけだと、聞いたのですが。」
Γそうですか。」
Γ体調がよくないので、帰ってもいいですか?」
私の側に、テーブルに片手をついて見下ろしているジークが、いやに近い。
Γ気を悪くしたらお許しください。お詫びにこれを…」
ジークが持つ瓶から、私のグラスに透明な液体が注がれた。
Γせっかくなので、一口飲んでみて下さい。飲まれたらお帰り下さっても結構です。」
Γ分かりました。」
気を緩めた私はグラスを持ち、ぐびぐびっと飲み干した。
途端に視界がぐらついた。
Γか、かえります。」
立とうとしたが、力が入らない。私は透明な液体が、水かジュースだと思っていた。飲んでみてしまった、と思った。西洋風なこの世界では、先入観でまずないと思っていたが、日本酒のような味わいのきつめの酒だったのだ。熱がある上に、未成年の私に飲ませるなんて…!わざとだ!
手をついて、なんとか立ち上がろうとしたら、よろめいた私を、ジークが抱き寄せた。
Γさ、さわらな…」
Γ不自由はさせません。共に過ごせば、情も湧くでしょう。だから、私にルルカとグラディアを下さい。」
ジークが私の耳を舐めて囁いた。
Γよちの…」
Γそう、あなたが最高の魔法使いになるのなら、私に力を貸して欲しいのですよ。ミヤコ。」
首を舐めあげられ、ぞわりと鳥肌が立つ。
Γでも、愛しているのは本当です。ミヤコ。」
Γうそ、だ」
一目惚れなんて嘘だ。あるとしたら、私の外見しか見ていないに決まってる。利用したいだけだ。
綺麗な顔だが、酷薄そうな唇で笑い、ジークが私の体を抱え上げた。
歩む先にベッドがあるのを見て、私は暴れようとしたが、手足がまるで言うことをきかない。
嫌だ、助けて…
意識が落ちる。
Γル…」
バキッ
眠りに落ちる前、すぐ側で変な音がした。
次回、続、最恐の魔法使いとその葛藤




