熱と自覚と2
今日のメニューは、青豆のスープに若鳥の煮込み、手作りパンに自家製サラダ。
Γ美味しいぃ!」
遠慮も忘れて、私はペロリと完食。ハンカチで口元をふきふきしてから、手を合わせる。
Γごちそうさま。今日も美味でした、ルー。」
私が食べている間、向かいで本を読んでいたルーに感想を述べる。ここ数日間、毎日一食はルーが持ってくるご飯を食べている。
ペロリと必ず平らげる私が面白いのだろうか。
王宮の厨房のコックさんは、逆に日に一食抜く私を怪しんでいるかもしれない。
ダイエットではないから。
食べると、いつも旨いだろみたいな得意顔をするルーが、今日はなんだか様子が違う。
本を読んでいたにしては、ページは変わっていないし、私がご飯を誉めても、にやりともしない。
Γルー、どうしたの?」
Γ何が?」
Γ機嫌悪いの?…っ、はっくしょ!」
Γ昨日、雨に濡れたからだ。」
ルーは立ち上がると、棚の上に置いていた私の上掛けを取ってきた。受け取ろうとして手を伸ばしたが、彼が上掛けを肩にかけてくれた。
Γあ、ありがと。」
肩に置かれていた手が離れるかと思ったら、そのまま強めに肩を掴まれた。
Γ…あの、ジークとかいう奴に近づくな。」
え?と、振り向いてルーを見上げた。
Γ何で?」
Γ…気に食わない。」
不機嫌そうに、そっぽを向くルーに首を傾げる。ジークって、多分中庭で昨日会った人だろう。
黒髪の自分を、物珍しげに見に来た人かと、愛想笑いをして無難にやり過ごした。
ジークは無言で固まったみたいになっていて、その隙に立ち去ったのだ。
何が嫌なのかな?
Γああ、もう自分の領地に帰るし、近づくことなんてないよ。」
Γ………。」
肩の、ルーの手の力が弛んだ。その手が私の首に触れた。
Γっ?!」
Γ熱がある。」
体温を測ってくれたのか。
言われたら、急にぞくぞくと寒気がしてきた。
Γ風邪引いたかな。」
Γよく濡れるの平気だな。」
風邪引いてたら世話ないな、と呆れたように呟かれた。
Γ雨好きだから。雨の音や水の感触、包まれているようで落ち着くの。」
今も降っている。梅雨の時期だろうか。窓の外を見つめ、雨音に耳を傾ける。
ルーも一緒になって窓を見ているのかと思った。斜め後ろに立っている彼の様子は、振り向かないとわからない。
ぐいっと顎に指がかかって、顔の向きを変えられる。
Γえ?!」
屈んだルーの顔が、あまりにも近くに寄ってきたので心臓が跳ねる。真摯な表情をしていた。黒曜石の瞳に吸い込まれるような錯覚を覚える。
唇に、彼の息吹きを感じるほどの近さ。思わずぎゅっと目を瞑った。
顎を掴む指が熱い。体温の熱さというよりも、それはルーの内面の熱さだと感じた。
私の心に、初めて怯えが生じた。