私と彼女の望み9
肩に置かれていた手から、へなっと力が抜けて離れた。私は上空の声に気を取られていて気づかなかった。
Γここから出るから!予知も洗脳も関係ない!私は私、思い通りにはなるもんですか!」
声が聴こえなくなった。押さえつけるような頭の痛みは消えて、意識が浮上するのを感じた。
やった!戻れる!
Γはあ…勝った。」
緊張を解く。辺りが淡く白く輝く。自分の意識がクリアになっていく。
Γ…あれ?」
私はようやく気づいた。すぐ隣に彼がいることに。
Γ………。」
Γルー?」
ひどく驚いたのか、彼には珍しく口を開けて、ぽかんとした顔で私を見ている。
あれ?いつからいたの、かな…
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Γうううーん、よく寝た。」
Γ…起きたか?気分はどうだ?」
Γなんだか…言いたいこと言って、すっきりした感じ。」
Γ…それは、そうだろうな。」
気分爽快に私は目を開けた。目の前にルーの顔を見た。
Γわわわっ!」
ずさっと下がると、壁に背中を貼り付かせた。
思い出して、ようやく理解した。
Γルー、私洗脳されて…」
Γああ。」
Γ私を助けてくれたの?」
Γ俺はきっかけだけを与えた。あとは、ほとんどお前の力だ。」
ベッドの端に座ったルーは、真面目な顔で私を見ていたが、そこまで言うとふいっと顔を逸らした。
沈黙が部屋を漂う。私は固まってどんどん顔に熱が集まるのを感じていた。
Γあ、あの」
Γ…」
Γ全部、見てたんだよね?」
Γ俺の腕を噛みやがった。」
ルーが向こうを向いたまま、ぼそりと低く呟く。
ひいい!
Γご、ごめんなさい!あの時は、その、わからなくて、ごめんね。それにありがと。」
Γ覚えてろ。」
Γうう」
枕を手繰り寄せ、顔を隠してから一番言いにくいことを何とか言ってみる。
Γあのう…、私の言ったこと、忘れてください。」
ああ、あれじゃあ告白したようなもんだよね。もう顔見れない。恥ずかしい!ルーを洗脳したい!
ぽおん!
Γあ!」
ルーの手により、枕は遠くに飛んでいった。
Γなにがだ?何を忘れて欲しいんだ?」
ベッドに膝をのせ、じりじりとルーが私に詰め寄る。にやりと笑みを湛えて、顔を隠そうとする私の手を払い除ける。
Γううっ…知らない。忘れたの。」
Γふうん。そうか?」
私の指を掴んだルーはご機嫌そうだ。
ああ、心が見えてる!?
目を左右に動かしてわたわたする私を愉快そうに見ながら、ルーはこれ見よがしに口を開け…
かぷり
私の腕を噛んだ。
Γふえん!?」
はむはむと甘噛みされているのが衝撃で、固まって見ているしかできない。
痛くなく、むしろ優しいと感じるぐらいで、なんだかぽうっとしていたら、上目遣いで私の反応を見ていたルーは、ゆっくりと口を離した。
Γおあいこだ。」
腕に、弱く歯形が付いている。動悸が更に速くなり顔が熱くて、もうぐらんぐらんだ。
Γか、勘弁してえ…」
Γさて、夕飯の準備をしなければな。帰るか。」
満足そうに笑い、ルーは身を起こすと立ち上がった。
彼が、またなと囁き消えるのを、私は茫然と見送った。それからベッドに突っ伏し、一人悶えていた。