表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/207

私と彼女の望み8

Γいいから帰るぞ。」


ミヤコの手首を掴んだら、手足をばたばたして抵抗し出した。


Γ嫌だって言ってるでしょ!ここがいいの!」

Γこのままだとずっと死人の洗脳に支配され続けるんだぞ。わかってんのか?」


虚ろな目をさ迷わせ、ゆるゆると首を振る。


Γいいの、ここなら誰も傷つけない。苦しく辛いこともない。」

Γ…ミヤコ。」


彼女の腰を掴み、いきなり乱暴に担ぎ上げた。


Γきゃあ!何するの、離して!」

Γこんな所にいたいだと?お前らしくもない!」


足をばたばたさせたミヤコが、顔の側にあったルーの腕を、がぶっと噛んだ。


Γなっ!」


衝撃で固まるルーの肩から、ころりと転がってミヤコが身体を起こした。そのまま脇目もふらず、走って逃げ出した。


Γ…噛んだ。お、俺を噛んだ。」


60年近く生きて、ベスト3に入る衝撃だった。


茫然として、噛まれた腕をさすっていた。ここは、精神世界。痛いと思えば、痛いような気もしてくる。傷があると思えば、傷ができるのだ。


Γミヤコよくも…俺を怒らせたな…」


*****************


ミヤコは逃げていた。何から逃げていたっけ?ただ、ここから外には行きたくなかった。

白い霧のようなものが彼女を囲んでいて、前方だけ道が見えた。前へ、奥へと導かれて行く。


横から飛び出したものに、顔をぶつけた。

見上げると、先程の青年だ。


Γ俺から逃げるとはいい度胸だ。」


ぞんざいな物言いだが、焦ったような表情でこちらを見てくる。


Γ……。」


青年から逃れようとあとずさる。


Γやることがあるんじゃなかったのか。」


言われて疑問が湧いた。そうだ。私はそう言ったんだ。何を?

急に頭が締め上げられるような痛みを感じて、その場にしゃがみこむ。何だったっけ?思い出そうとするたびに、頭が痛むようだ。こめかみを押さえて、目をつむる。


Γミヤコ。」


目の前の青年が、肩をつかんでくる。


Γはなし…」

Γしっかりしろ!俺を見ろ、俺は誰だ?」


誰?言われて、目を開けて青年を見る。その瞳を見つめる。


Γあっ…」


声を出そうとして、頭がずきりと更に痛んだ。

いつの間にか白い霧が消えて、赤く周りが鈍く照らされている。


『魔法使いを殺せ、お前が最高の魔法使いになるなら、他の魔法使いを殺せるはず。』


頭の上から、女の声が響いてきた。青年にも聴こえているのか、声のする辺りを見上げている。


『殺せ、全て消せ。』

Γ…嫌だ。」


自分の言った言葉に、意識が晴れていくような感覚がした。

私のやること、そうだった。


ぐっと顔を上げた。操られていることに、怒りがこみ上げる。


Γ嫌だ。私はあなたの思い通りにはならない。」

Γお前、意識が…」


隣にいる青年の声も耳に入らない。それだけ自分の意志を無視されていたことに腹が立っていた。


Γ私は誰も殺さない!私自身も殺さない!」

『魔法使いは世を乱す。今滅ぼさなくては。あの戦乱で、わかったことだ。』

Γ違う、違う!魔法使いだけに罪があるんじゃない。唆して止めなかった人間にだって罪がある。彼らに、彼に全てを背負わせるなんて間違ってる!」


胸の内に溜め込んだ気持ちを吐き出す。上空からの声など、聞いているのも腹立たしい。


Γ私、私…、救いたい。何もできないかもしれないけれど、救いたいの。皆に忌み嫌われて、孤独な人だから…。」

Γ…ミヤコ?」

Γ長い間、一人でいた人だから。せめて私だけでも…、近くにいてあげたい。」

Γ……それが、お前のやりたいこと?」


隣の声に無意識に何度も頷き、胸を押さえた。


Γあの人を見るたびに、胸が痛む。だから、まだ帰れない。」


心から彼が笑って過ごせる日が来るまで。


Γミ…」

Γ幸せになって欲しいから…だから、こんなところにいられない。私は、いつまでも眠ってなんか!」


掴まれたままの肩に力が込められた。


Γお前が…救いたいのは誰だ?だ、誰のために…?」


彼の顔を思い出し、言葉にしようとしたら笑みが零れた。


Γ料理上手な最高の魔法使いよ。」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ