私と彼女の望み7(ルー視点)
白く靄がかかって視界が不明瞭だ。足元もふわふわして平衡感覚が危うい。
Γどこだ?」
長居はできない。他人の意識下に潜ることは自らの意識を侵食される可能性があり、自我を失いかねない。早く彼女を正気に戻さねばならない。
力がありながら、その育ちゆえ魔法の知識に欠ける自分でも、さすがに分かる。
ふわり
誰かがすれ違って駆けて行った。
パタパタと足音が小さくなるのを、急いで追いかける。
Γミヤコ!」
すぐに足音が消えて、姿が見えない。
どこだ?!
魔法の使えない精神世界では、彼女の気配すら掴めない。不自由この上無い。
方向が分からないが、ひたすら歩いて捜す。
ふいに視界が開けた。
家がある。この世界の建物ではない。
玄関が開いた。
Γ行ってきます!」
家から少年が出て来た。
Γ待って、満!」
後から、初めて会った時の服装でミヤコが出て来た。
Γおっそい、姉ちゃん!置いてくー。」
Γもう!」
弟の後ろをミヤコが付いていく。
Γ満、今日はまだテスト?」
柔らかい表情で、ミヤコが弟と話しながら自分の側を通り抜けた。
Γミヤコ?」
見えてない?声も聞こえてないのか?
その内に家は消え、学校が現れる。授業を受け、友達と談笑する。帰りにカフェに立ち寄る。休みの日は家族と出かける。
次々と映像のように、日常が移り変わる。
Γ…帰りたいのか。」
向こうの世界のミヤコは、楽しそうに笑っている。幸せだったのが感じられる。
唐突に景色が消えた。違う場面にまた移り変わる。
Γここは、俺の島か。」
目の前に見慣れた滝が流れている。いつかのように、近くの岩場にミヤコが膝を抱えて蹲っていた。少しだけためらい、彼女に近づいた。このままにはできない。うつむいた彼女の肩に手を伸ばす。触れられないかもしれないと思ったがそんなことはなく、触れると華奢な肩の感触が確かに伝わった。
ミヤコがビクッと身体を揺らし、こちらを見上げた。潤んだ目と視線が合った。
Γ帰るぞ。さっさと目を覚ませ。」
Γ…嫌だ。」
思わぬ応えが返ってきた。
Γ私ここにいる。邪魔しないで。」
眉根を寄せて、彼女をまじまじと見つめる。
Γもういいの。ここは、居心地がいい。」
Γお前…。」
洗脳で、ミヤコの意識はここから出ることを拒んでいる。そして、時間の経過と共に益々染まっていく。ミヤコ自身のこともわからなくなって、勿論俺のことも…。
Γくそっ、ムカつく!」
無性に腹立つ。




