私と彼女の望み6
黒の喪服を着替えたリュカは、ミヤコの部屋の前にいた。王宮の守りのために張った結界が既に破られていることには、葬儀の前から気づいていた。
一呼吸置いて扉を開けた。自分たちの部屋よりは狭い、こじんまりとした部屋の中。ミヤコは静かにベッドで眠ったままだ。ベッドの端に腰かけて彼女を見ている青年に、リュカは目を細めただけで驚くこともなかった。
Γミヤコに掛けられた洗脳は、おそらく全ての魔法使いの抹殺だ。」
こちらを振り返りもしないルーの背中をリュカは見た。
Γ…そうですか。数は少ないので可能かもしれませんね。」
Γ貴様がいながら、この様とはな。」
互いに冷え冷えとした空気を放つ。
当然だ。リュカにとって彼は親の仇。そして脅威なのだから。
Γこの程度の洗脳なら、解くことはできるんじゃないのか?」
Γ聞いてどうするのです?」
Γいいから答えろ。俺より長く生きてる貴様なら知っているんじゃないのか?」
苛立ってはいるが、それでもかなり感情を抑えているのだろう。ようやく視線を向けたルーは、冷静さを装っているように見えた。
Γそうですね。自らの意識を彼女の魂というか、精神世界に潜り込ませることができ、尚且つそこで洗脳を上回る意志を動かすことができたら解くことができるかもしれません。ですが難しいですよ、失敗すれば自らの意識も戻らなくなるかもしれない。」
Γ意識を、潜らせる…」
言葉を確認するように反芻したルーの周りを、淡い金色の光が囲う。
Γ寝首をかかれないよう、結界は張っておく。」
光がミヤコの周りにも広がり、球体の形に二人を包んだ。
Γ貴方…いいんですか?」
ためらいもしないルーに、リュカが目を見開いた。
答えることなく、ルーはミヤコの頬に両手を当てると、自分の額を彼女のと合わせた。目を閉じて、意識を集中させる。じっとそのまま動かず、時間が経っていく。
数分後、ルーの体から急に力が抜けた。
Γ…入れたようですね。」
ミヤコの隣で意識を失ったルーを見て、リュカは小さく息をついた。
哀れな男だ。どんなに世界から忌まれても、貴方は…




