私と彼女の望み5
「お呼びですか、ローレン様。」
黒の長衣を着たリュカが部屋に入って来たのを、ローレンは横目で見ると人払いをした。
同じように黒の詰め襟の長衣を着込んだ少年は、つかつかとリュカに歩み寄った。
「何を考えてるんだい?」
「何のことです?」
「とぼけるな。」
襟を直しながら、ローレンはリュカに普段見せない強い口調で言った。
「ミヤコをなぜ助けなかった?お前なら、王妃様の魔法ぐらい防げたはずだぞ。」
「まあ、そうですが。」
悪びれもせず、淡々とリュカは答えた。
「勝手に召喚しておいて、ほったらかしとは呆れた。未来がどうあれ、彼女は今は人間の女の子なんだ。責任を持って守るべきだ。」
「ローレン様。」
黒い瞳を伏せ、リュカは無表情だ。
「私はミヤコを守るつもりはありません。」
「リュカ、お前…!」
「彼女の存在は、ルルカとグラディアの安定のための布石、と言いますか…」
「つまり、道具にすぎないと言うのかい?」
冷ややかなリュカの言動に、ローレンは吐き捨てるように聞いた。
「全ては貴方のために。」
「秘密主義め。」
部屋の外から、促す侍女の声が聞こえ、ローレンはリュカの傍を足音高く通りすぎた。
「今行く。」
王妃の葬儀だ。ミヤコと彼女のことで、グラディアとの関係がこじれるのは避けないといけない。だから、表面上ローレンはミヤコのことを忘れたように振る舞わなければならない。あちら側からも、公式な謝罪はないだろう。謝罪すれば、王妃の非を認めたことになるから。
ローレンはミヤコが憐れで仕方なかった。
国のために犠牲になったようなものだ。
彼女の未来が、少しでも明るいものであるように、願わずにはいられなかった。