私と彼女の望み2
早朝、廊下を慌ただしく行き交う足音とひそひそと抑えた会話に目覚めた。
なんだろう?
私は着替えて、昨夜自分で切り揃えて肩につかないほど短くなった髪を櫛ですいた。外の護衛にどうしたか聞こうと椅子から立ち上がった時、扉がノックされた。
「はい。」
「失礼します。」
護衛の人が扉を開けて入ってきた。
「王妃様がミヤコ様をお呼びです。」
「え!」
ドキリとして、緊張が走る。
護衛の人が、沈痛な面持ちで続けた。
「今朝がたから、王妃様の容態が急変されて、もう今日あたりかと思われるそうです。意識のある内に、急ぎお越し下さい。」
「…わかりました。」
固い声で応え、私はすぐに向かうために廊下に出た。昨日は、王妃にどうやって会おうかと考えていたのに、あちらから呼ぶとは思わなかった。
グラディア王宮の広い宮殿は「ロ」の形に造られており、二階建ての四つの角に政務のための建物や兵や下働きの者の詰所なんかが連なっている。その内の一つ、王族の居室が集中する建物に、長い廊下を渡ってたどり着く。
「私もご一緒しても?」
王妃の居室の前で、リュカが立っていた。
私の髪をちらりと見てから、意味ありげに口端を上げた。この人には、何が見えているのだろう。
「ミヤコ様お一人だけと申し付けられています。リュカ様はお待ち下さい。」
控えていた若い侍女が咎める。リュカは優しそうな笑みを浮かべて、
「ミヤコは、まだ上手く言葉が話せません。私が通訳しますから、お許しください。」
と言った。侍女が部屋に伺いをたてに行き、戻って二人共入っていいと扉を開けた。
私はリュカの顔を見上げたが、彼は無表情で私を見もしなかった。
「そなたが、ミヤコ、か?」
部屋のベッドに横たわる王妃は痩せ細り、土気色の顔で、眼だけを動かした。
「はい。初めまして王妃様。」
リゼさんは、本来王妃付き侍女だ。彼女が私を殺そうとしたなら、それは王妃の命じたことなのだと推測できる。
こんなに病み衰えた体で、どうして私を殺したいのか。緊張で固く手を握りしめて、私は王妃の言葉を待った。
体調不良の中、なんとか書けてよかった。