表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/207

大罪の魔法使い10

私が泣き止むまで、ルーは屋根の上に片膝をついて座って街景色を眺めていた。


街の灯りが明るい場所と暗い場所とがあって、私のいた世界よりもずっと夜は深い。

仄かなランプは、ぼんやりと照らして綺麗だけれど、どこか淋しい。


「元の世界に帰りたいか?」


隣で涙を拭いている私を、ルーは見た。優しい響きに、私は首を振った。

ルーは、怪訝な顔をした。意外だったのだろう。


「この世界は、お前には生きづらいだろう?俺が…」


言葉を切って、ルーは私から目を逸らして街に視線をやった。


「俺が…、元の世界に帰してやろうか?」

「今はいい、ありがとう。」

「は?」


私は微笑んで、即答した私に驚く彼を見つめた。


「私ね、この世界でやりたいことができたの。だから、今は帰れない。」


帰りたい。でもそれはいつでもいい。捜しているだろう家族や友達を思うと、とても辛い。辛いけれど、今ルーと離れるのも辛い。もう二度と会えなくなるなら、私は彼に何かしら恩を返してからにしたい。せめて彼がこれ以上嫌われないように、私に何かできないだろうか。


じっと私を見ていたルーが、おもむろに手を伸ばしてきた。

心を読む気だと分かり、ばばっと彼から離れた。

ガシッ


「ぎゃあ!」


腕を掴まれて、指先にまでその掴んだ手が滑り落ちてきた。

無!無よ、私!

色即是空!


「…何だ?意味がわからない。」


ルーは、首を傾げた。


「む、無闇に心を勝手に読んじゃあダメだよ。プライバシーの侵害!盗聴は犯罪!覗きも犯罪!」


心当たりがあるのか、ルーはさりげなく私から手を放して、遠くを見た。心無しばつが悪そうな表情だ。


「まさか」

「やりたいことは何だ?」


私の言葉を消すように、ルーが聞いた。


「今は教えられない。」


いつか帰る私には、告白なんて無責任にできない。


「ち、読めない。」

「良かった。」


ローレンから心を読まれないには、違うことを思い浮かべたり、無心になるんだと教えられていて助かった。


「…まあ、いい。」


ゆっくりと立ち上がったルーを見上げた。


「か、帰るの?」


淋しい気持ちを押し殺していたら、ルーは私を見下ろして少しだけ笑った。

私の肩に手を置いたと思ったら、私は既に王宮の門の前だった。


「またな。」


私の肩を撫でるように手を滑らせて、ルーは踵を返した。


「また、ね。」


まだ一緒にいたかったな。彼の背中を見つめていたら、足を止めてルーが振り向いた。


「お前…、あの女に気を付けろ。人間の血が強いが、あの女は…」


私は、わかっていると頷いてみせた。

それを見届けて、ルーの姿はかき消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ