大罪の魔法使い9
リアさんが、ジリジリと間合いを取ろうとする。ルーの背後にいる男も短剣を構える。
「待て!なぜこの娘を助ける?この娘は…」
「ぐだぐだとうるさい。」
ルーが、私を支えていない方の右手をすっと挙げた。その動きに、私は慌ててその手にしがみついた。
「だめっ!」
「っ、またか。」
手を伸ばしたら、蹴られたお腹がずきっと痛んだ。
「うっ…ダメだよ。」
痛みに顔をしかめながら、必死で声を絞った。
「殺してはダメ…」
「お前。」
耐えられず、しがみついた手を放してお腹を押さえ、しゃがみこもうとした。
「……。」
ルーは右手で私の腕を掴み、左手を私のお腹にかざした。ふわっと痛みが消えて、目を瞬いた時には、私は彼にお姫様抱っこをされていた。
「あ、え?」
「…なぜ殺してはいけない?」
背後の男が針のような物をいくつか投げてきたが、ルーの結界に当たるとカラカラと落ちていく。それを見もせずに、ルーは私の顔を見ていた。顔を赤くしながらも、私はちゃんと答えようと真っ直ぐに見返した。
「どんな人間でも、命は一つ。殺すのは簡単でも、生み出すのは大変なことだよ。この人たちにもお腹を痛めて産んだお母さんがいるの。だから殺すんだったら、この人たち一人一人のお母さんに土下座してからにして。それができないなら、私は人が死ぬのは見たくない。嫌な気持ちになるだけだから。」
一息にそれだけ言うと、ルーは目を丸くして黙ったままだった。
それからゆっくりと唇が弧を描き、
「わかった。」
と、静かに呟いた。私を見るために伏せられていた目が、リアさんたちを再び見た時には、赤く光りだす。
「全てを忘れ、帰るがいい。」
カラン
ルーがそれだけ言うと、リアさんと男は短剣を落とした。それからぼんやりした顔で、とぼとぼとどこかへ歩いて行ってしまった。遠くで倒れている女は気絶したままみたいだけど。
「ルー、何をしたの?」
「おしゃべりな王様から聞かなかったか?俺は洗脳を使う。」
「あ!」
そうか、リリアを倒したから。
考えを巡らせた時には、私は民家の屋根の上だった。
「うわっ、あ?」
「見せろ。」
私を降ろして座らせたルーは、遠慮なく頭に触る。殴られた所に手が置かれて、びくっと身体を引こうとしたら、手が追いかけてきて私の傷を癒してくれた。
押されて倒れた時に、擦りむいた頬を包むように手が添えられた。手と、そこから流れてくる治癒の魔法が暖かい。ルーは微かに眉を寄せて膝の傷や殴ってできた手の傷を次々と治してくれた。
「…もう泣くな。」
いつの間にか、また泣いていた私は、ルーのその言葉に余計に涙が溢れてしまった。
安心したのと、彼がやっぱり優しい人だと感じたのと…、それから、また会えて本当に嬉しいから。
私の身体中の怪我を治し終えたルーは、最後に目元をそっと拭った。たくさん泣いて腫れぼったくなったのを癒すために。
「ルー、ありがと、ぐすん、うっく…」
「とんだ泣き虫だな。」