大罪の魔法使い3
私達は一軒の屋台に来ていた。
「ここの麺は美味しいんだよ。」
ね、と顔を見合わせるローレンとサラ。この感じ一度や二度のお忍びではなさそうだ。グラディア王宮の花壇に隠された、塀に開いた小さな穴から、先にくぐり終えた子供達の応援と共に、私は「ぐううー」と唸って四苦八苦して脱出した。もうほんの少し、お腹にお肉が付いていたら、そのまま穴に挟まれていたことだろう。
またもまぬけな姿をさらしかけるところだった。
注文して出てきたのは、魚介類の出汁が利いたラーメンのようなものだった。味付けは濃すぎず、麺はもっちりつるりとしている。かなり美味しい。
私は、ローレンに借りた大判の黒い布…、ショールのようなもので目立つ髪を隠して麺を食べている。
ローレンはサラの分を小皿に取り分けてあげている。端から見たら仲良し兄妹だ。そこでふと疑問が。
「ローレン、護衛の人とかいなくて大丈夫?」
「うん。心配しなくて大丈夫だよ。僕にはリュカがついてるから。リュカは僕の気配を常に感じて、今どこにいるか把握している。もし危険があったらすぐに翔んでくるよ。」
何喰わぬ顔で、ローレンは麺を啜った。
「リュカは、じゃあローレンが王宮を離れているのを知っているってこと?」
「勿論。」
ローレンはそこで不思議そうな顔をした。
「そういえば、いつもは出かけるって言ったら、嫌そうな顔して口うるさいのに、今日は何も言わなかったな。」
「あ、やっぱり反対されてるんだ。」
それはそうだろう。リュカがローレンを大事に思っているのは、見ていてわかる。そうでなければ人間の子に臣下の礼は取らないだろう。
麺を食べ終えた頃には、夕暮れだった空が暗くなりつつあった。
ズラリと左右に並ぶ屋台には、仕事帰りの人たちや家族連れが食事をしている。美味しそうな匂いや楽しげな賑わいを横に、ローレンとサラは私の前を手を繋いで歩いている。
街の賑わいから、やや離れた道に階段が見えてきた。
「ミヤコ、ルシウスのこと教えてあげるって言ったよね。」
「うん。」
振り返らず、ローレンは階段を上っていく。
「グラディアの貴族達はルシウスのことひどく言ってたでしょ?」
「…うん。」
先程読んだ本の内容を思い出し、私はうつむきながら二人の後に続いた。
「ミヤコ。僕はね、ルシウスは被害者だと思っているんだ。」
「え?!」
意外な言葉を聞いた。驚いている私をローレンは真剣な顔で振り返った。
階段を上がった所は、街を見渡せる高台で広場になっていた。そこにはぽつんと隅に小さな石碑が建っていた。
「ルシウスは、昔ここで暮らしていたよ。他の魔法使いたちと一緒に、グラディアの兵器として。」