グラディアへ10
「あなたは、しばらく謹慎です。」
「…はい。」
グラディアには10日ほど滞在予定だ。でも、謹慎となると外出はできないし、部屋も見張りが引っ付いて、王宮内を散策することもできない。
自由がきかないのは嫌だけど、この程度の処罰で良かった。
リュカに呼ばれて、彼の部屋の椅子に座っている。お湯を魔法で沸かして、お茶を作っている彼を見る。
長身で髪は長く、ぱっと見、中性的で女性のようにも見える人だ。声は低くて、いつも落ち着いた話し方をする。
あの時…。
謁見の間で、貴族達に強がった態度を見せてしまい、私は気づいた。私はどうもリュカに対して憤りを感じていたようだ。今までは、右も左もわからない異世界で途方に暮れていただけだった。
でも、時間をおいてみると、私は始めからリュカに理不尽に無理やり召喚されたことを恨んでいたらしい。
だから、リュカの予知を否定するかのような発言を、私は謝らないことにした。
「ルルカの南部名産のお茶です。」
私の前にカップを置いて、リュカは向かい側に座った。
「…私を召喚して、がっかりした?」
優雅に茶を飲む彼が、すっと私を見た。
「さあ…どうでしょう。」
この人もまた、ルーとは違う種類の冷たい目をする。
「私、魔法使いになんてなりたくないよ。リュカの期待には応えられない。」
「あなたの意志は、予知の上では関わりのないことです。私の予知は、抗いようのない未来です。」
「わ、私がルーを殺すの?本当に?」
リュカの薄い唇が弧を描く。
「時が経てば、わかります。私には結果が見えますが、必ずしもそれに行き着く経過は見えているわけではないのです。」
不安と信じられない気持ちが押し寄せる。
それなら…、それならもうルーには会わない方がいい。ルーだけが、私を元の世界に帰せることができる。でも、会わなければ彼を殺すこともない。それで二度と帰れなくても。
「…どうして私なの?」
リュカはゆっくりお茶を飲んでいる。
「私の世界では、黒髪に黒い瞳なんて珍しくもなんともない、ありふれた人種よ。そんなたくさんの人たちの中で、なんで平凡な私だったの?」
わからないことだらけだ。そもそもリュカは、私が魔法使いになって得することがあるのだろうか。召喚までして…。リュカは、単にルーの死を望んでいるのだろうか?
クスクスとリュカが、小さく笑った。相変わらず褪めた目をしている。
「ミヤコ、あなたで良かったです。」