グラディアへ6
グラディア王は、40代の渋さの漂うおじさまだった。まだ若いのに、来年にはローレンに王位を譲るそうだ。なんでも王妃様が病気で共に過ごす時間を作るためらしい。
「お初に御目に掛かります。ミヤコと申します。」
私は練習した通りに、一度立ち上がり腰を落としてお辞儀をした。グラディア王は、疲れたろうと労ってくれた。この後に二言三言、言葉を交わして私は退出するように予定されていた。
…そう簡単には終わらないわけで。
「陛下、信用してはなりません。魔法使いなど気を許せば何をするか。」
ひそひそ悪口言っていた男が、声を上げた。
また一人壮年の男が口を出した。
「過去、国が乱れたのは彼らのせいでした。戦乱の種をまた取り込むことには反対です。」
戦乱の種?私はリュカを窺ったが、彼は目を伏せてやり過ごしている。何か魔法使いがしたというのだろうか?言葉と作法は一通り習ったけれど、歴史については私はあまり知らない。
ん?あえて教えてくれてないのかな?もしかして。
ローレンがそっと隣に来て囁いた。
「大丈夫かい?彼らはね、僕がグラディア王になった時に連れてくる魔法使いが自分達の地位を脅かすことを危惧しているだけだよ。魔法使い排除論なんてもの掲げてるけれど、つまりは自分達の保身のためだね。まあ、そういう奴等は僕が全員追い出しちゃうけどね。」
明るく話すローレンが、子どもに見えない。この子…。警戒心が湧いた。
「…戦乱の種って?」
「…んー、後で話すよ。それより、奴等の相手しないと。」
ローレンの視線の先に、さっきの男たち。
「聞いてるのか!」
わ、私?ああ、サラが泣きそうな顔をしてこっちを見ている。子どもが怯えてるのに、なんて大人げないんだろう。
「はい。」
「本当に魔法使いになれるのか?魔法使いは、遺伝として伝わるもので、ただの人間がどうして魔法使いになれるのだ?」
グラディア王が、身を乗り出した。
「それは、余も知りたい。リュカよ、聞けばあのルシウスを倒せばこの娘、魔法使いになれると聞いたが?」
「…ええ、まあ。」
リュカは目を伏せたまま答えた。
「は!ただの人間が魔法使いを倒せる訳がないだろう!馬鹿らしい!」
私もそこが一番不思議だ。不可能だし、それに…。
「私は予知を見たのは確かです。しかし、詳細についてはわかりかねます。」
無表情なリュカに、男達がざわつく。
「静まれ!」
王の側近らしい身分の高そうな人が、注意するが聞こえてないようだ。
「いや、この娘が魔法使いになるかなど大したことではない。おい、娘!」
「は、い?」
男達が居丈高に私に問う。
「お前は、あの罪人を必ず殺せるんだろうな?」
「…!」
罪人?
「島に逃げ込んだあの臆病者は、我々の報復ができない所で半世紀ものうのうと暮らしている。そんな罪人を処刑できるなら、我々とて願ったり叶ったり。」
「さよう、後顧の憂いがようやく絶てるのだ。」
い、今まで耐えていたけど、限界が来たみたい。
かあっと血が上り、私はぱっと立ち上がり彼らを初めて睨み付けた。