グラディアへ5
グラディア王宮の謁見の間。その扉の前で、ローレンは私の手を放してから、思い出したように言った。
「あー、あのね、ミヤコ。」
「うん?」
「この国さ、あまり魔法使いのこと、よく思ってないんだ。」
「え?」
「何か言われるかも…、ま、気にしなくていいからね。」
にこっと人好きする笑顔で、ローレンが先に部屋に入って行く。
…いや、早く言ってえ!
私の緊張は、最大になった。
謁見の間は、案の定雰囲気が悪かった。ローレンと私が入ってきた途端、シンと静まり返った。遅れてリュカが背後に控えた。
玉座にゆっくりと歩み寄る。その両側に宰相以下大臣や貴族が立っていた。彼らが、ひそひそと囁く言葉が丸聞こえだ。
「まだ若いな、少女じゃないか。」
事実です。
「本当にリュカの予知は正しいのか?」
私も不安で疑問です。
「なかなか美しい娘ではないか。」
てへ!
「ルシウスを倒せるのか?」
無理だよ。
玉座に座るグラディア王の前で、私とリュカがひざまずく。ローレンは立ったまま、臣下の礼は取らない。一国の王として、許されたことだ。
「ローレン様!」
控えている人びとの間から、くるくる巻き毛の金髪の女の子が飛び出してきた。
「サラ、元気だったかい?」
抱きついてきたサラ王女を受け止め、ローレンは優しく声を掛けた。
「はい、ローレン様…」
こそっとローレンの耳に手を当て、王女は内緒話をしたようだ。
「うん、分かったよ。あとでね。」
頭を撫でると、サラはまた元の場所に駆けていった。
「かわいい!あの子が王女様か。」
七歳だと聞いている。天使みたいな可愛らしさだ。目で追っていた私は、王の咳払いで慌てて頭を下げた。
「お転婆が失礼した。」
「養父上。」
ローレンが丁寧に挨拶をしている間も、両サイドからの視線が私に注がれている。好奇心と警戒とが混ざっているみたい。
「…して、この娘が?」
「はい、名はミヤコ。次の最高の魔法使いとなる娘です。」