虜の成れの果て5
窓の外は既に暗く、王宮は各所に備えられたランプの灯りで、淡く儚い光に包まれていた。
ローレンとサラの祝い事が終わり静かになった謁見の間に、私は立っていた。
侍女さん総出で化粧をし直してもらい、髪は緩くカールを付けてもらい、そこに床に届くほど長いヴェールに、これまた裾を引く白い衣装を着ている。首や手首には借りた装飾品を付けているが、耳には私の希望でルーからもらったイヤリングを飾った。
Γ変じゃないかな?」
手には、サラが庭から摘んできた気の早い春の花。たくさんの黄色に青や白の小さな花が賑やかで可愛い。
私の周りには参列客、と言ってもローレンやサラ、レオ君親子に無表情のリュカに侍女さん達20人ほどだけだ。皆、頬を赤くして溜め息をつく人もいた。
Γ変?まさか、凄く綺麗だよ。」
Γえへ、ありがとう。」
ローレンが言うと、侍女さん達が頷いてくれた。お世辞でも嬉しい。
着ている衣装にちりばめられた真珠が灯りに反射して明るく光っている。
Γルシウスはまだかい?」
ローレンがリュカを見たが、知るわけないでしょうとつれない。私が用意している間に、ルーはすぐ戻ると姿を消してしまったのだ。
お腹を触る私を見て、侍女さんが椅子を勧めてくれようとした。
Γミヤコ。」
ぱっと腕を支えられて隣を見ると、ルーがいた。
Γルシウス、遅い!」
ローレンの咎める声に、じろっと睨み返したけれど、ルーは私を見て囁いた。
Γ遅くなった。」
Γううん、大丈夫。」
ルーがふらりといなくなる時は、大抵私の為に何か行動しているのだとわかっていた。そんな時は、あとでそれが何だったかわかるものだ。一緒に暮らして、彼のことをもっと知ることができるようになった。
にこにこ機嫌良く笑ってルーを見ていたら、私の姿をじっと見てから、私の頬や唇に指でなぞるように触れた。ルーは朝からの衣装のままだけど、改まって見ていたら、よく似合っていてカッコ良くて何だか照れてしまう。結婚式なんてしなくていいと思っていたのに、こうして式を上げられるなんて夢みたいに嬉しかった。
Γルシウス、ミヤコがあまりに綺麗で見とれてるんだろ?」
Γ黙れ。」
照れ隠しのように、私の腰に腕を回し、ルーは支えるようにして正面の通路を通り、一段高い雛壇までゆっくりと歩いてくれた。
Γミヤコ、俺は気が利かないからお前が式を望んでいたことに気づかなかった。」
Γいいのよ。」
Γお前が望むことは叶えたい。だからそんな時は伝えたらいい。」
嫌に殊勝な言葉に私は、くすくすと笑った。
この人は…
私は十分ルーからもらっている。
欲しい言葉も行動も。欲張りな私でさえ満腹になってしまうぐらいの心をもらっている。これ以上求めたらバチが当たる。
ルーの腕に腕を絡める。
Γありがとう。私十分だよ。」
欲を言うなら、そんなルーを今思いっきり抱き締めたいと思った。