虜の成れの果て4
Γミヤコ、おめで…」
バタン!
ローレンが部屋に入ろうとしたら、開いた扉が勢いよく閉まった。
Γちょっと、ルー」
Γ邪魔だからな」
私のお腹にくっついたまま、ルーはうっとおしそうに扉を見やった。
Γ何してくれるのかな!」
リュカに今度こそ開けてもらって、ローレンは社交スマイルをキープしつつ入ってきた。
Γごめんね。ローレン、あの後はどうなったの?誰も怪我はなかった?」
ローレンに敵が多いことは知っていたけれど、実際に目の当たりにすると警戒感に欠けていた自分を反省する。これからも彼を守っていかないと。
Γ動揺は見られたけど、皆無事だったよ。彼らには改めて楽しんで過ごしてもらった。刺客のことはショックはあったけれど、君達の話題が上手くカバーしてくれたようだね。ぷ、ルシウスが父親とか…想像できなっ…」
Γこのガキ」
じろっと睨むけど、未だにお腹にくっついているルーは迫力に欠けた。何だろ?ルー単に甘えているのかな?それとも赤ちゃんができて感じる物があるのかな?
Γそんな態度取っていいのかな?せっかくお祝い用意したのに。」
ローレンが後ろを振り返り目配せすると、サラと侍女が白い衣装を手に歩み寄ってきた。
Γえ?」
簡素なドレスに着替えたサラは、私を見て恥ずかしそうにしている。
Γあなたも結婚式したいでしょう?」
Γえ?」
Γサラがね、お祝いなら君達に結婚式を執り行ったらいいんじゃないかと言うから、まだしてないよね?」
母上の婚礼衣装だよ、とローレンは私の手に置かれた白い衣装を指差した。
サラのも綺麗だったが、これもとても美しい。真珠がたくさん縫い付けられて、さぞ高価な衣装だろう。
Γ式だと?ミヤコがこんな体調なのに…」
Γ綺麗…ありがとう、サラ、ローレン。」
衣装を撫でる私を見て、ルーは黙った。
Γルー」
手を伸ばすと、ルーは渋々といった感じで私の手を握った。
Γ結婚式やりたいのか?」
Γうん、ダメかな?」
衣装を着るだけでもいい。指輪の交換もいらない、神様への宣誓もいい。形だけでもしたい。今更だけど、ルーのお嫁さんになったという証明みたいなものを形に残したい。
気持ちを読み取って、軽く目を瞬きしたルーは気遣ってくれた。
Γ……ミヤコ、大丈夫なのか?」
Γうん、お願い」
握り返した手を引いて、体を少し起こして、ルーの頬に唇を当てた。
Γお前の頼みに俺は弱い。」
俯いたルーは、困ったように微笑んだ。