虜の成れの果て3(ルー視点)
魔法使いは子ができにくい。特に、力があって長寿な魔法使いほど尚更だ。人間と同じような確率で子が生まれたら、この世は魔法使いだらけになることだろう。
これは自然の摂理。常に人間よりも魔法使いが少ないのは、そのせいだ。
だから、まさかと思ったのだ。いや、俺は島で一人生きている内に死ぬまで一人で過ごすだろうと思っていたから、ミヤコの体調不良が子を身籠った影響だとは思いも寄らなかったのだ。
医者とレオの母親から、その辺りのことを教え込まれて、俺は横たわるミヤコの傍に翔んだ。
それは本当に不思議な感覚だった。言葉にできない感情が胸をつき、彼女に口付けをした。
ゆっくりと瞼を開けたミヤコは、今までにないほどに息を呑むほど美しかった。疲れた様子なのに、普段と何が違うのか?これが母となる女の持つ眩しさなのだろうか。
敵わない。ミヤコは常に俺の予想を越えて上を行く。今更ながら、リュカの言葉の意味が分かった。
卑怯な俺はいつかずっと先になってから、子のできにくいことを告げるつもりだった。逃がさないように、ちゃんと捕まえて、それを聞いても諦めてくれるだろう時に。それなのに…
嬉しいと咽び泣くミヤコに安心する。腹の子に嫉妬のような気持ちもあるが、その子の存在がミヤコを俺から離さないだろう。
だが……何とも言えない心地だ。
まだ膨らんでもないミヤコの腹に触れる。まだ気配さえ定かでない小さな命。
俺の子。俺がミヤコと生きている証。
Γルー、幸せ?」
彼女に聞かれて考える。俺は参ったな、と思った。自分よりも大切なものが更に増えるとは思わなかった。
妻の腹を撫でながら、顔を寄せて目を閉じると胸がじんわりと温かくて訳がわからない。
ミヤコを愛しいと感じるのに似ているが、これは子が生まれれば分かる感情の気もする。
Γお前が幸せなら、俺も幸せなんだろうな。」
お前はやはり最高の魔法使い。どうしたって敵わない。こんな俺との子を産んでくれるのだから。
昔の自分が知ったら、さぞ驚くことだろう。想像もしなかった未来だ。