結婚式9
Γ……ミヤコ。」
Γん?」
Γ何してる?」
Γんー、ちょっと…」
隣に座るルーが肘をついて、私をじいっと見てくる。
私は目を反らして、口元を片手で隠している、正確には鼻を。
次々にテーブルに並ぶ美味しそうな食べ物達。いつもの私なら、目をキラキラさせて喜んでる。でも、ダメだ…食べ物の匂いが、特に揚げ物とか魚とかは視覚的にもダメ。気持ち悪い…おまけに人が多くて、香水とかの匂いもするし。
今思い切り匂いを吸い込んだら私は吐く。
ああ、早く終わらないかな…
Γミヤコ、お前無理してるだろ?」
ルーが私の額に触れてきた。
Γ…大丈夫、少し疲れただけだよ。」
Γ……顔色も悪いし、呼吸も荒い、吐き気があるのか?」
心配してくれるルーに、申し訳なく思う。
これは、ちゃんと言わなくてはいけない。
Γあの…ルー、昼食会が終わったら…ここのお医者さんに診てもらいたいんだけど…その…」
う、なんか恥ずかしい。
ルーは指を顎にかけて考えている。
Γお前位の力の有る魔法使いは、通常病気はしない。それにお前は病気には詳しいはずだ。医者がいるような体調なのか?」
病気じゃないから、魔法使いでも症状出るのかな。
Γえっと…一応ちゃんと診断してもらったほうが安心というか、その…」
目の前に出されたガラスの杯には、柑橘系のジュースが注がれていて、私はそれに視線を向けた。ルーのはお酒だろうか。淡い紫の液体が杯に揺らめく。
渇いた唇を湿らそうと、私は杯を手にした。
ローレンが、中庭を背にしたテーブルについてサラと二人で杯を持ち上げる。それが食事の始まりの合図で、各々が杯やらフォークやらを手にする。
ほんの僅かに、私は皆より早く杯に唇をつけて気づいた。水の魔法を使えることが、飲み物の異物を察知することに敏感だったのだと思う。何か考えている表情のルーが杯に唇を付けるのを見て、私は思わず杯を持つ彼の手をぎゅっと握った。
Γダメ!毒よ!!」
パリン、と私の杯が床に落ちて割れた。
目を見張るルーの手を握ったまま、周りを見渡し魔法を使った。
Γローレン!」
人々の杯を片っ端から割って、ローレンを見ると、既にリュカが杯を取り上げていた。床とテーブルには、飲み物が零れてガラスが飛び散ったが、幸い誰も飲まなかったようだ。ローレンが私に頷くのを見て、ほっと息を吐いた。
同時にくらくらした私はテーブルに手を付いて、そのまま床に膝をつきそうになった。
目を閉じていたが、次に目を開けた時には、私はルーに抱き上げられていた。
Γ………ルー」
Γなぜ……」
どこかぼんやりとして口を開けては閉じて、なぜ早く言わない?とだけ呟いて、ルーは動揺していた。
そうか私、ルーの手を強く握って…
Γごめんなさい。ちゃんと分かってから言おうと思って。」
ルーに体を預け、私は彼の服に顔を埋めた。ルーの香りは、なぜか胸焼けが治まる気がした。
Γ……ミヤコ。」
ぎゅっと私を抱き締めて、ルーは立ち上がった。
その時だった。
中庭の窓の外から矢が放たれた。
ローレンを狙った矢は、事前に張られた結界に弾かれて落ちていった。
ヒュッ、と耳元で音がした。
ルーが張った結界の外を掠めた矢に、魔法使いも狙われていることを知った。
Γルー、皆を守って。」
彼の服を握ると、ルーは苛立ったように窓を振り返った。
Γ全く、こんな時に!邪魔くさい!」
外に炎が飛んで行った。
 




