結婚式2
予定の時刻ギリギリにルーに抱えられて到着したら、待ち構えていた侍女さんやレオ君と彼のお母さんに確保された。
Γお姉ちゃん、遅いよ。」
Γさ、ミヤコ様。早くご用意を。」
侍女さん達に連れて行かれる途中で、ルーを振り返ったら、
Γ……俺の顔見て…吐いた…」
まだ根に持っていた。首を傾げたレオ君が、ルーの腕を引っ張って誘導している。いつもなら触るのを拒むに、ショックが大きかったらしい。
Γミヤコ様、顔色が悪いみたいですが大丈夫ですか?」
最近仲良くなった侍女さんが、私の化粧をしながら聞いてきた。ちなみに着替えさせられながらだ。急がしてしまって申し訳ない。
Γええ、大丈夫です。」
胸焼けするのは、ここ最近ずっとあった。最初は食べ過ぎかなと思ったけれど、朝起き抜けが一番気持ち悪くて、何か食べたら幾分楽になるって……さすがに自覚する。
口元が自然緩む。
Γあの、帯あまりきつく締めないでもらえますか?」
Γえ、はい。」
レオ君のお母さんが小さく、あ、と声を出した。
Γ………」
私に何か言いたげに口を開きかけたので、黙っていて欲しいと首を振って合図を送った。
他の侍女さん達は、急いでいて気づく余裕がなかったみたい。
今はローレンの結婚式に集中して、あとで王宮の医者に診てもらおう。
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結婚式は、グラディアの謁見の間でおこなわれた。宗教という概念の無い世界では、教会はない。謁見の間は、かつて私が魔法使いとして紹介された部屋だが、あの時は貴族の人達にうるさく言われて、心底腹が立ったんだった。
今は、そんな人達はほとんど見ない。心の声を拾うけれど、警戒や畏怖はあっても憎悪は感じられない。おそらくリュカが招待客を選別したのかもしれないし、頻繁に顔を出すようになった私達に少しは考えを改めてくれたのなら嬉しい。
私とルーの前を、正装したローレンと裾を長く引いた白い衣装のサラが、しずしずと歩いて行く。
Γはあ、サラちゃん綺麗。」
Γ……………」
不機嫌そうなルーが、二人ではなく私を見ている。ルーは、詰め襟の濃青の騎士服のような衣装で、黒地に金糸と銀糸で細かい刺繍が縁に入ったマントのような衣装を羽織っている。私は、薄い緑とレモン色のグラデーションが春っぽいドレスで、銀の長いリボンを腰に巻いて余りをサイドに垂らしている。
見られているのに気付いて、私もついでにルーのそんな王子様的な姿を堪能する。
Γ……ミヤコ、俺に見惚れてるだろ?」
ぶっきらぼうにルーが口を開いた。断言してるところ、凄い自信だ。でも、本当のことなので…
Γうん。カッコいいと思って。」
照れながら褒めたげたのに、ルーは疑わしげだ。
Γなら、なぜさっき俺の顔見て吐いたんだ?」
Γだから、違うって。それはたまたま…」
Γたまたま?」
Γ……気付かないの?」
Γ何が?」
本当にわからなそうなルーに、私はしばし考える。そんな私に、手っ取り早く心を探ろうと、ルーが手を握ろうとしてきたので、反射的に手を後ろに隠して逃げてしまった。
Γあ、この…」
Γごめん、つい」
できるなら、はっきりわかってから落ち着いて話したい。睨むルーに、愛想笑いをして思う。
この人、知ったらどんな表情をするのだろう?
不思議と不安はなかった。




