グラディアへ2
「貴方まさかミヤコの着替えとか見ていないでしょうね?いくら魔法使いでも、やっていいことがありますよ。」
「……」
私は思わず自分の体を抱き締めた。否定、しないの?
「黙れ!」
ルーの周りに風が集まる。それがリュカに向かって鋭く研ぎ澄まされていくのを肌で感じる。
咄嗟に、ルーの片足にしがみついた。
「うあっ?!」
私の行動が予測できなかったらしく、ルーはとても驚いたようだ。
「ダメ!ルー!」
もう血は十分だ。目をつむり、力を込めてしがみつく。
「泥が付く!やめ…、離せ!」
私を離そうと、足を前後に振る彼に意地になって、益々しがみつく私。
「ふ、いい光景です。」
小馬鹿にしたように、リュカが薄く笑った。
ルーはリュカを睨んだが、やがて諦めたように溜め息を吐いた。
「わかったから…離せ。」
軽く私のフードを引っ張り、静かに言うので私はようやく足を離した。
視線を周りに向けると、いつの間にかルルカの兵達がルーに剣と矢を構えていた。それをルーは余裕で見ている。
「…それで、ミヤコをグラディアへ連れて行ってどうする気だ?」
「彼女はいずれ我が国の利益になる。他国を牽制するためにも、ミヤコの存在を世に知らしめてやります。」
「……。」
冷たい目をして、ルーは私を見下ろした。
「まあいい。ミヤコ、お前が本当に俺に取って代わるのか見届けてやる。せいぜい頑張るんだな。」
「……。」
私は何も言えず俯いた。
「…ああ、リュカが言ったことは半分嘘だ。」
覗きのことだとわかって、ぱっと顔が赤くなる。
「待って、どこから半分?!」
それには答えず、ルーは踵を返した。
「グラディアか、滅ぼしてやったら清々するかもな。」
呟いて瞬時に姿が消えた。
正に風の如くいなくなり、私は呆然とした。
彼のいた辺りを見つめる。
ああ、淋しいなあ、と思った。どうしてだろう?ルーと過ごした時間は、たった一日ほどだったのに。
私はこの一ヶ月、ルーを思う度に胸がつかえるような感覚を覚えていた。今、彼に再び会ってそれは確信に至った。
私、私は…ルーが好きなんだ。
悲しみに近い感情だと思った。