未来を拓け3
今日は疲れた。
肩を越えた髪と体を洗い、浴槽に浸かる。不老長寿といえど、汗はかくし髪や爪も伸びる。
小さな浴槽は一人用で……二人は無理なので、ちゃんと一人ずつ入っている。今のところは。
温かい湯が気持ちよくて、ほうっと息を吐く。
Γ……ふふっ」
思い出すとにやけてしまう。リュカに勝ったことは嬉しかった。でもそれが霞むほどにルーの告白は嬉しすぎた。ルーは、真実を言ったまでだと淡々としていたが。
しばらく浸かっていたら、頭がぼうっとしてきたので浴槽から出た。タオルで拭いて、髪を風の魔法で乾かしながら、ワンピース型の寝巻きに着替える。
Γルー?」
裸足で廊下に出ると、寝室から灯りが漏れていた。ドアを開けると、ルーは既にベッドで上半身を起こして窓の外を眺めていた。私は彼の横顔をしばらく見つめていたが、こちらに気付いたルーが自分の横をポンと叩いた。
Γミヤコ、来い。」
Γは、はい」
おずおずとベッドに上がると、直ぐにルーの腕が私を抱き締める。緊張するのに安心して心地よいなんて不思議。そのままズルズルと二人でベッドに横になる。
Γ疲れたか?」
Γ……うん」
Γ眠っていい。」
え?と思わずルーの顔を見上げてしまい、赤面した。
Γ何だ?」
意地悪く笑うルーが、私の髪を撫でた。
Γべ、別に…」
Γ試合で疲れているお前を抱くほど、俺は獣じゃない。」
頬にキスされて、額に触れた髪がくすぐったくてはにかむ。
ルーの瞳は蕩けるように甘くて、それが私にしか見せないものだと思うと、凄く嬉しい。
Γ……試合、勝ったね。」
Γああ。お前はよくやった。奴の驚いた顔が見れた。」
あの後私達は、ローレンに正式に専属魔法使いとして人々に紹介された。これから忙しくなる。傍らで無表情だったリュカが何となく可哀想だったし。
Γルーかっこよかったね。衣装良く似合ってた。」
Γ黒がか?」
照れながら褒めたのに、ルーは首を捻った。
Γこの世界では黒はあまり良い色ではない。不吉な色、死を暗示する色だ。」
Γえ、そうなの…」
Γ……俺にはお似合いかもな。」
またそんなことを言って…ルーが自分を嗤うのが、私は嫌だ。上向いて、彼のまぶたに優しくキスをする。ずっとちゃんとこうして私が愛していたら、いつか自分を嘲笑うことが無くなったらいいな。
色の意味を踏まえて、ローレンが衣装を用意させたなら考えものだ。ついでに私は真反対の白だったのも含みを感じる。
でも…色には必ず両面性がある。
Γ私は黒、好きだよ。」
ルーの髪に指を通して、微笑んだ。
Γだって、こんなに綺麗。」
灯りを消した部屋。月の光に浮かぶルーの黒髪は艶やかで、瞳だって宝石みたいに美しい。
私の言葉に、ルーは目を細めて私を見つめた。
Γ……そうだな。」
Γ黒は、深い水の色。夜空の色。何物にも染まらない高貴な色…」
Γ詩のようだな。」
ルーが可笑しそうに笑った。私は髪を撫でられている内に、次第に眠くなってきてしまった。大好きな人の暖かさが、本当に幸せで気持ちが良かった。
Γ……とても安らぐ、色よ…」
Γミヤコ」
名を囁くルーの唇が、私の唇にそっと触れた。
眠りに落ちる前に、忘れない内に言っておこう。
Γルー…黒の中にあって、唯一染まらないもの、なあに?」
Γ謎かけか?」
Γ…………」
私の額に唇をつけて、ルーはほんの少し考えてから、こう言った。
Γ正解は光だ。そうだろう?」
私は答える代わりに、微笑んで眠りに落ちた。




