御前試合9
Γく、あなたは以前の半分の魔力のはず。なぜ…」
リュカにより私が負った怪我と同じ部位を、ルーは正確に傷付けていく。右手を押さえてリュカが苦しげに問う。今しがた折られた右手は、ルーが負った怪我の報復だろう。
Γ最高の魔法使いとは、底無しじみた魔力を持つ魔法使いのこと。言ってみれば魔力が多いだけだ。だから今の俺では、貴様の攻撃で直ぐに結界は消えてしまうし、逆に攻撃したら結界で防がれたら太刀打ちできない。だが…」
Γぐあっ!」
リュカが結界を張る前に翔んだルーが、素手で顔面を殴り飛ばした。
Γ魔法は技術で何とでもなる。攻撃のタイミング、素早い行動に判断力。ああ、貴様は王宮にずっといたから戦い方も忘れてしまったのだな。」
倒れたリュカの腹を踏みつけ見下ろすルーは、冷たい表情のまま淡々と話している。
Γ俺が誰か忘れたか?魔法使いを絶滅寸前まで減らしたのは俺だ。どれだけ戦ったかわからないほど…」
拘束の魔法で動けないリュカに手をかざしながらルーは自分を嘲笑う。
つっ、とリュカの心臓に狙いを定めたルーは、静かに怒っていてリュカを痛め付けることしか頭にないようだった。
心臓にダメージをくらったら魔法使いはどうなるのかわからない。私は手すりから身を乗り出して名を呼んだ。
Γルシウス!!」
ビクリ、とルーの背中が揺れた。ややあって、ゆっくりと頭を巡らせ、ルーが私に視線を向けた。舞台から距離があるのに、私の声をルーはしっかり聞き取ってくれた。
私が一生懸命に首を振ると、剣呑だった赤い瞳が揺れて少しづつ冷静さを取り戻していった。
ルーのかざした手が、弱く拳を作るのを見たリュカが光の玉を放った。
Γあ!」
口元を覆った私の視線の先には、結界を張るより早く、翔んで回避したルーの姿が見えた。
Γ……ミヤコが泣く。殺し足りないが許してやる。もしまたミヤコに余計なことをしたら次はないと思え。」
舞台のあちこちで燻る炎を消して、ルーは勝敗は決まったとばかりに、そのまま舞台から去ろうとした。
Γ…………ミヤコ、ミヤコと…、そんなに彼女が大事ですか?」
鼻で嗤ったリュカの馬鹿にしたような問いに、ルーは立ち止まった。考えるように目を伏せてから、唇に弧を描いた。
顔を上げたルーは、リュカではなく観衆を見上げた。
それからルーが答えた言葉。
私は決して忘れないだろう。
 




