御前試合7
先程の護衛に案内されて私は貴賓席にやって来た。
Γやあミヤコ、見事だったね。おめでとう。」
Γえ、ええ…」
椅子に腰かけたローレンが私に笑いかける。まだあどけない彼を見て、リュカに脅すように言った言葉を思い出す。事実を言ったまでだが、攻撃を仕掛けるために注意を反らそうと選んだ『ローレンが死ぬ』という言葉。
予想通り動揺していたが、他に言いようがあっただろうに。ローレンを引き合いに出したことに罪悪感を感じる。
あんな言い方でしか彼の心に響かない。リュカと歩み寄るのは、かなりの時間を要するだろう。
Γミヤコ、リュカは可哀想だと思わないかい?」
Γえ?」
一瞬、さっき痛め付けたことかと思ったがそうではなかった。
Γリュカには自分がない。長く生きすぎて、僕と国のことを守ることだけが生きる拠り所になっている。それはもう異常な程にね…その結果リュカは、僕も自分も信じられなくなってしまった。」
Γ……ローレン」
ローレンは、寂しそうな表情をして舞台に目を向けた。
Γ君達がリュカの予知を超えて、今ここにいることが僕は嬉しい。君達がいることで、リュカも予知に頼り過ぎる愚かさを理解していくだろうから。」
Γそうね。」
Γもっと自由に生きたらいいのに…リュカは、不器用で可哀想な魔法使いだよ。」
ローレンが生まれた時から傍にいるリュカ。わかりにくいけれど、ローレンとリュカは親子のような情を通わせているのだろう。ローレンの言葉の端々に、憐れみと優しさを感じ取れる。
私がローレンに仕えたいのは、彼ならリュカを抑えられるから、その懐に潜り込めばリュカも手出しできないと思ったのも一つの理由だ。
Γ話し変わるけれど、ローレン…」
Γ何?」
Γ最初から私とルーどちらも試合に出させる気だったよね?」
Γうん、ごめんね。だってその方が盛り上がるでしょ?」
ケロッとして答えるローレンをじっと見つめる。
Γミヤコもわかってたんでしょ?」
Γええ。」
腹は立たない。むしろ二回も戦うリュカに同情する。
利用するのはお互い様だ。それで、ルーを護れるならいい。
Γお、始まるよ!」
椅子から立ち上がり舞台を見下ろすと、ルーの後ろ姿が見える。
Γルー」
小さく呼ぶ私をチラッと窺い、ローレンが声を掛けてきた。
Γミヤコ、心配そうだね。ルシウスが負けるか心配かい?」
Γえ?ううん。」
私はキョトンとして首を振った。そんなこと今となっては思いも寄らなかった。
Γいえ、ルーがリュカを殺してしまうんじゃないかと心配で…」
Γへ?!」
青ざめたローレンと共に再び舞台を見守る。どうか親子連れの観客に、刺激が強すぎませんように。




