グラディアへ
私の髪を引っ張っていた手が離れ、地面に倒れ込んだ。一陣の風は、私の横を通り抜けて空に舞い上がっていった。
「……」
地面に膝をついて、私は息を呑んで見上げた。
目の前にルーが背中を見せて立っていた。
彼と私の周りには、死体となった刺客たち。
先程髪を掴んでいた男も、私から数センチの距離で倒れていた。その喉は、鋭い刃物に斬られたようになっていて、それを目の端で見てから彼にまた目を移す。
しばらく動かなかったルーは、一つ肩で息をすると、ゆっくりと振り返った。
「ルーぅ。」
あ、泣きそう、震えた声になってしまった。
一ヶ月ぶりに会った。懐かしいよ…。
凄惨な光景が広がるのに、どうしてだか怖いとかよりも、彼に会えたことが嬉しかった。
視線を逸らしていたルーは、私の表情に気づくと戸惑いながらもかがんで手を差しのべてくれた。
私はその手を取ろうとして、途中で止めた。
手に触れられると、気持ちを読まれてしまう。
「…利口になったな。」
手を引っ込め、ルーは鼻で笑った。
「あ、あの、ルー。」
助けてくれた。お礼を言いたいのに、彼の冷笑に言葉が上手く出ない。
突如、ルーを目掛けて雷が落ちた…と思ったら、彼を避けるようにして消えた。
「よく島から出てきましたね。」
リュカが彼の背後から声を掛けた。
「少し興味が湧いたからな。」
何事もなかったように、ルーはリュカを見もせずに応えた。
「こんな何の力もない女が、本当に最高の魔法使いになれるのか?」
私も不思議だ。魔法使いは、リュカのように遺伝的に力を受け継ぐのがほとんどらしい。
私は人間だ。しかも人間しかいない世界から来たのに、そんなことがあり得るだろうか。
「ふふ、よっぽど気になりますか?そういえば貴方、ルルカでもミヤコをよく覗いてましたね。ふ、私が知らないとでも?彼女の寝顔を見たりして…変態ですか?」
「………」
「………」
はいーー?!