御前試合
聞いてない…聞いてないよ!
Γいやあ、僕の結婚前祝いと称して呼び込んだけど一大イベントだね。これはきっと歴史に残るよ!魔法使いのバトルなんて、そうそうお目にかからないからね。ほら見てよ、大変な人気だよ!」
言われなくても、控え室にまで響く観衆の声に気が遠退く。さっき覗いたら、そりゃまあ凄い人数の人々が円形状の観客席にひしめき合っていた。椅子が足りなくて、階段や床にも座っているほどだ。
Γ……チケット何枚売ったの?」
Γうん?一万五千」
ローレンは、王様らしく詰め襟のきっかりした服を着て、思わぬ観光収入にほくほく顔で言った。
Γルー、知ってたよね?」
用意された白いドレスの裾を翻してルーを見れば、壁に寄り掛かってにやりと笑っている。
Γ言えば、緊張すると思ったからな。」
Γい、今緊張してるんだけど?!」
Γ言っても言わなくても同じだろ?」
Γそ、そうだけど…」
腰辺りでふわりと膨らみをもたせたドレスの布地をきゅっと握る。ところで私はこんな格好で戦えるんだろうか…お姫様スタイルなんだけど。
ちなみにルーは、魔王スタイルだ。黒いズボンに、膝丈ほどある黒い長衣には全体に金の刺繍が施されている。その上に肩で止める黒いローブのような物を着ている。
リュカは別室にいて知らないが、ローレンはこれらを半月で仕上げさせたのだ。
Γ気に入らないが、お前は似合ってるな。」
なぜか体の線がしっかり出て、デコルテも大きく開いている舞踏会仕様のドレスを着た私。
楽しそうにじっと見ているルーは、なぜ平気なのか?
Γ………ルー、私負ける気しかしない。」
あんな大観衆に見られて試合するなんて。心臓がドキドキして、手に汗もかいてきた。
Γミヤコ、緊張してるとこ悪いけど、君には先に戦ってもらう。」
ローレンがさらっと言って、ふらっとなる。
Γわ、私、先?」
Γは?俺が奴を倒せばいいだろう?」
ルーが詰め寄っても、ローレンはにっこりしている。
Γ僕がここまでするのは、なぜだと思う?リュカの気持ちの決着だけのためじゃない。ミヤコ、分かるよね?」
Γあ…そっか。」
これは宣伝の意図が大きいんだった。
Γわ、わかった。私出るね。」
Γミヤコ」
腕を掴んだルーが、眉根を寄せて私を覗きこむ。
Γ……ルー、ちょっとだけ、その…ぎゅってして」
Γ……まったく」
私の頭と腰を抱いて、ルーが励ますように言った。
Γミヤコ、俺の妻の美しさを観客共に見せつけてやれ」
Γふわっ、う、うつく?!」
美しいと?!
Γう、うう…」
Γ何だ?泣いてるのか?」
震える私の肩を掴んで離し、ルーが私を見る。
Γうふ、ルーが私のこと、う、うつく…!」
Γ…………」
Γふ、ふふ、ふ、ぶ!」
糸が切れたように、声を出して笑う私の口をルーが手で塞ぐ。
Γ……ダメだな。おかしなテンションになっている。やはり俺を先に出させろ。」
Γぶ、むー!おかしくなってない!」
手を払い、叫んで抗議する。
Γはあ、ちょっとすっきりした!」
すうはあと深呼吸を繰り返して、編み込んだ髪をサイドに流して、あきれたような顔のルーに、にっこり笑いかけた。
Γ行ってくるね」




