白い世界で
閑話的小話
空から落ちてくる柔らかな雪を見ている。視界の全てが白の色彩の世界。
ぼんやり見ていると、空も地も見分けがつかなくなって、自分がふわふわと浮いている感覚に陥る。
サクッと雪を踏みしめて、黒い影が私を見下ろした。
Γお帰り、ルー」
黒いコートを着こんだルーが、雪の上に身を投げ出している私を引っ張って立たせた。
Γ体が冷えるだろ」
温めるようにルーの腕が私を包んでくれる。甘えてすり寄れば笑われた。
Γどうした?淋しかったのか?」
Γうん」
素直に頷けば、からかう言葉も消えて赤いコートの上から背中を撫でられる。
Γ街の様子は、どうだった?」
Γかなり話題になってたな。チケットは即完売で、他国からも観客が押し寄せてる。」
ルーは一人、試合会場となる野外劇場を下見に行っていた。私は留守番をしながら、魔法の練習をしていたのだ。
Γチケットって、何枚用意してたんだろ?」
Γ……さあ」
知らなくていいだろ、とルーが私のまぶたにキスをした。誤魔化した?
Γそれで、お前はどんな感じだ?」
Γうん、やっぱり風だった。」
そう言って魔法で風を起こすと、雪がサラサラと舞い上がって行った。
Γそうか。俺は炎だな。」
赤い瞳が見た先で、ジュワッと雪が融ける。
Γ…………」
綺麗な宝石のような瞳に見とれていて忘れるところだった。
Γあ、ルー私ね、水も使えるみたいなんだ。」
Γ何?」
雪が融けた水を、宙に浮かべて回転させる。くにゃりと動いてスライムみたいだ。
Γふうん、相性がいいんだろ。」
少しばかり驚いて見ていたルーは、お前雨が好きだからな、と言った。本来は生まれた時に素質として、初めから相性の良い魔法を身につけているものなんだそうだ。ルーが炎なのは、何となく納得。
Γあ、頼んだ物買ってくれた?」
Γああ、あれをどう使うんだ?」
Γ今は内緒」
私達が話している間にも、降りしきる雪はフードや肩を滑っていく。
雪が周りの音を閉じ込めて、静寂が私達を包むようだった。
Γ………何だか、この世界に私とルーだけしかいないみたいだね。」
Γミヤコ」
Γん?」
くいっと顎を持ち上げられ、ルーを見上げる形になる。氷を宿した瞳が揺らめいていた。
Γお前が望むなら、俺とお前だけの世界を造り上げてやる。」
Γ……ううん。私はそれを望まないよ。」
そんな寂しく甘い世界にいたら、ダメになる。
今だって、かなりダメになってるのに。
Γ言うと思った。……はあ、いっそのこと閉じ込めて…」
Γルー」
宥めるように唇を寄せたら、吸い取るようなキスをされた。再会して結婚して、体と心を触れ合わせたら、もうこの甘い熱から抜け出せない。
無性に恋しくて、本当は片時も離れたくない。
Γ……家に入るぞ」
Γうん、寒いね。」
ルーの腕に掴まって歩く。
Γ温かいスープを飲ませてやる。それから…」
それから?
ルーの唇が耳を掠める。
Γお前の熱が欲しい。」
 




